Information
無料相談実施中!お気軽にご相談下さい。
24時間・時間外受付可能!
Information
年次有給休暇は労働者にとって休日以外でもお金を受け取りながら仕事を休める という権利ですから、年次有給休暇は財産的価値を有する権利に該当します。
事故の治療のために年次有給休暇を使ったということは、そのときには収入の低 下はなくても、本来、労働者が自分の意思で自由に利用できたのに、この治療のため に費やした結果、今後、自分の意思でその年次有給休暇の枠を利用しようとしてもそ の分は欠勤扱いになり、収入の減額につながります。
結果、年次有給休暇を利用しないで欠勤したため減収を招いた場合との均衡上、そ の年次有給休暇の価値(具体的には、労働基準法に即して算定された1日あたりの平 均賃金単価×使った年次有給休暇の日数分)にみあう財産的損害が発生したとして、 減少した年次有給休暇の価値相当額を加害者に損害賠償請求できると考える裁判 例が多いようです(東京地裁1994/10/7交民集27巻5号1388頁、大阪地裁1998/7/3交 民集31巻4号1012頁、大阪地裁2001/11/30交民集34巻6号1567頁、大阪地裁 2008/9/8交民集41巻5号1210頁、神戸地裁2001/1/17交民集34巻1号23頁、東京地 裁2002/8/30交民集35巻4号1419頁、京都地裁2011/2/1交民集44巻1号187頁ほか )。
使った日数しか乗じることができませんので、例えば事故のために1か月連続して休 んだとしてもその1か月間に利用した年次有給休暇が土日の所定休日を除いた22日 間の場合には、22日分がこうむった財産的損害ということになります。
そして年次有給休暇の単価計算方法ですが、労基法39条9項本文では「就業規則 その他これに準ずるもので定めるところにより、①平均賃金②所定労働時間労働した 場合に支払われる通常の賃金③健康保険の標準報酬日額、いずれかを採用」と定 められており、法が全ての会社での画一的な算定方法を要求しているわけではあり ませんので、当該年次有給休暇の時価相当額を幾らとみるべきかは、勤務先が算出 規定を設けているか、設けていない場合はどのような支給がされているかなど、年次 有給休暇を利用した場面での実態も勘案して決定する必要があると思われます。
③健康保険の標準報酬月額はネットに公表されていますが、年ごとに改訂されるよ うで年次有給休暇の単価計算にはあまり利用されていないのではないでしょうか。① 平均賃金は、以前3か月間に支払われた賃金総額を、その期間の総日数つまり 90~92日で割って算出します、その間にもらった賞与は勘案しません(労基法12条1 項4項)。②の1日あたりの通常の賃金は、通常の月給(賃金の定義は労基法11条で 、手当など名称の如何をとわず、労働の対価として支払われるものを指すとされてい ます)を就業規則などで定めている月間の所定労働時間で割って1日の所定労働時 間を乗じて算出することになるのでしょう。
なお、実際の会社では年次有給休暇の単価計算方法を定めていないこともあり、そ のような会社では昭和27年9月20日基発第675号「日給者・月給者などにつき、所定 労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金を支払う場合には、通常の出勤をし たものとして取り扱えば足り、労基法施行規則25条にさだめられる計算をその都度行 う必要はない」にさだめる取り扱いをしていることが多いようです。簡単にいえば、年 次有給休暇を利用した日は普通に出勤していたものと扱って減収ゼロにする扱いで すね。
この便宜的な減収ゼロとなる扱いの場面を、例えば先ほどの1か月まるまる連続休 業して土日除いた22日の有給休暇を利用した場合にあてはめると、①平均賃金でなく②通常の賃金で計算する運用だということになるのではないでしょうか。なぜなら 、①平均賃金を使っているならばその22日利用分は絶対に単価減少するはずだから で、にもかかわらず支払額が減少していないということは、②通常の賃金で計算して いると考えるべきだからです。
さらに、交通事故後に年次有給休暇を利用していても、そのうち通院していない日 について自宅療養のための利用だったとは認めがたいとか、医師の同意のない整骨 院での施術日に年次有給休暇を利用した分はその5割を補償対象にするにとどめる とした名古屋地判2018/8/31交民集51巻4号1022頁があります。
ちなみに、国家公務員には、年次休暇以外に病気休暇・特別休暇・介護休暇という 制度があります(一般職休暇法16条以下)。 介護休暇は無給ですが(一般職休暇法20条3項)、病気休暇と特別休暇は有給です (一般職給与法15条反対解釈)。
この病気休暇について、年次有給休暇と同様に補償の対象となるという裁判例と( 名古屋地裁2010/7/2判時2094号87頁)、補償の対象とならないという裁判例(福岡地 裁小倉支部2013/5/31自保ジ1904号10頁、名古屋地判2020/11/30交民集53巻6号 1563頁)に分かれていますが、裁判官の交通事故赤本講演録2018年43頁には、年次 有給休暇のように自由に時季を指定して利用できるものではなく、使途を限定されて いることから、後者に軍配を上げているようです。
あと、私企業には法律上の年次有給休暇のほか、未消化のまま時効が到来した年 次有給休暇を一定期間積立保有できる積立休暇という制度が創設されていることが あります。
例えば、業務外の疾病・家族の傷病のために連続して1週間休む必要がある場合、 年次有給休暇に先立って消化するようにと、社内規程が設けられていたりします。
交通事故で積立休暇を消化した場合に休業損害の補償対象になるのかについて、 肯定する裁判例もありますが(福岡地判小倉支部2015/12/16自保ジ1981号90頁)、 積立休暇の規約をみると年次有給休暇と異なり自由に時季も使途も指定できるもの ではないことがほとんどなので、2018年交通事故赤本講演録のスタンスにしたがえば 、年次有給休暇と同様の補償は受けられないことになるのではないでしょうか。
ついでに、振替休日をとって休日に仕事をして平日に通院した場合、もともとその休 日の部分は無給ですから、補てん対象となる財産的損害が発生していないということ で、休業損害の補償対象にはならないと考えられます。
とはいえ、本来なら自由に利用できる休日を治療のために費やしてしまったという点 では交通事故により不利益を被ったといえるので、慰謝料算定の際に斟酌してもらう という考えも一理あるのかもしれません。
交通事故(人身被害)に遭われてお困りのときは、お気軽に、豊富な解決実績を誇 る、福岡の弁護士、菅藤浩三(かんとうこうぞう)にご相談ください。