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交通事故の後での症状発生と、因果関係or相関関係の区分

  • 更新日:2025.10.18
  • 投稿日:2025.10.18

第1、因果関係・相関関係の定義
1)因果関係(Causation
  
因果関係とは、ある事象Aが発生したことによって、別の事象Bが生じたという「原因と結果」の関係を指します。
 すなわち、AがなければBは起こらなかった(または、ABを生じさせた)と認められる場合、両者の間に因果関係があるといいます。
 現実、法律や医学の分野では「相当因果関係」という用語を利用し、Aが通常Bを生じさせるような原因にあたるかどうかが考慮されます。

2)相関関係(Correlation
 
相関関係とは、二つの事象の間に統計的な関連性が認められるけれども、一方が他方の原因であるとは限らない関係を指します。
 例えば、Aが起こるとBも起こる傾向があるが、ABを引き起こしたとはいいきれず、Bの発生には、A以外の偶然や第三の要因(C)が原因となっている可能性が多分に否定できないという場面にて、このときは両者の間には相関関係があるにとどまると扱われます。

2、因果関係・相関関係の判定基準
  1)因果関係の判定基準
  
因果関係を認めるためには、以下の要素を総合的に判断します。

  1. 時間的前後関係:原因とされる事象が結果よりも先に起きていること。
  2. 医学的・科学的整合性:原因が結果を生じさせることが、医学的・科学的に説明可能であること。
  3. 他の原因の排除:他に合理的な原因が存在しない、または主たる原因が特定できること。
  4. 経験則・統計的蓋然性:同様の事例で通常そのような結果が生じる蓋然性が高いこと
     法的場面では「相当因果関係」の有無こそが重視されます。

2)相関関係の判定基準

  相関関係は、主に統計的・観察的データから以下の点を基準に判断します。

  1. 同時的発生傾向ABが同時または近い時期に発生する傾向はある。
  2. 統計的関連性Aの変化に応じてBも変化する傾向は否定できない。
  3. 因果性の説明欠如:☆ABを生じさせる機序が明確でない、または他の要因で説明できる☆すなわち関連はあっても原因と結果の強い因果はない

     法的場面では、相関関係が否定できないだけでは賠償責任を是認するに足りず、相関関係を超えて相当因果関係があってはじめてその症状に対して賠償責任アリとされます。

2、交通事故における、因果関係と相関関係の具体例

 A:たとえばバイク乗車中に交差点で横から自動車に衝突され転倒し、運ばれた病院で左腕の骨折が確認されたとしましょう。
 1.〇時間的前後関係→事故直後に画像が出現
 2.医学的整合性→衝突転倒時の衝撃で左腕に強い外力が加わり、
   骨折するのは整形外科的に整合している
 3他の原因の排除→事故前に骨折をもたらす衝撃は受けていず、
   骨折をうかがわせる症状もなかった
 4.○経験則・統計的蓋然性→同様の事例で通常そのような結果が
   生じる蓋然性が高い
 ⇒よって、事故と受傷の間には因果関係があると判断できる。

B:たとえば交通事故で骨折して入院している間に運動不足とストレスで高血圧が悪化したという事例を設定しましょう。

    1.○時間的前後関係→事故直後に血圧が悪化  

   2.×医学的整合性→交通事故で骨折することが血圧の上昇をもたらす
         病院になる可能性は低い
 3.×他の原因の排除→ストレスと運動不足で高血圧が悪化することは
        起きますが、入院患者全員がストレスをもよおし運動不足になり
      高血圧になるとは限らず、事故前からの体質や内疾患が高血圧を
     もたらした可能性を排除できない
  4.××経験則・統計的蓋然性→同様に入院患者全般について血圧上昇が
     生じる蓋然性は高いという統計が見出しがたい
 ⇒よって、事故と受傷の間には因果関係はありとまではいえず、せいぜい相関関係に留まる。

3、因果関係があるのか、相関関係に留まるのかの具体的な判定方法
     交通事故による受傷や発症といえるのか、その因果関係の有無は次の観点を組み合わせて判断されています。
    単なる時間的近接や交通事故前には症状を自覚したことがなかったというだけでは相関関係を超えて因果関係を立証したことにはならず、客観的資料と専門的知見がそこには求められるのです。
  ●医学的証拠:診断書、画像検査、臨床経過などから、病態の機序を裏づける。

  • 事故態様との整合性:衝突の強度・方向と受傷部位の関係。
  • 被害者の既往歴など:交通事故前からの既存疾患や加齢変化を原因とする(例えば、交通事故傷害による統合失調症の発生について、自賠責の認定を覆し交通事故との因果家計を否定した千葉地判2003/10/9自保ジ156012頁)
  • 症状の持続性と一貫性さらに時間ギャップ(例えば、京都地判2016/8/30自保ジ1987号69頁)

  事故と発症との間に時間的ずれがあると、その症状は事故が原因とは医学的に説明しがたいと判断されやすいですし、事故以外の生活習慣・加齢・ストレスなどの環境因子が病気の発症をもたらすこともありえます。そういうときは、事故と症状発生との間に、統計的に相関はあるものの法的な相当因果関係があるとはいえないという判断がくだされます。

菅藤法律事務所 菅藤 浩三

この記事の著者・運営者:菅藤法律事務所 菅藤 浩三

福岡を拠点に、交通事故被害者の問題解決をサポートする現役の弁護士。弁護士歴約25年、2000件以上の交通事故案件を解決してきた豊富な実績を持つ。東京大学卒業後、合格率2.69%の司法試験に合格。整理回収機構の顧問弁護士や、日本弁護士連合会・福岡県弁護士会の委員を歴任するなど、交通事故分野における高い専門性と信頼性が評価されている。

当サイトでは、長年の経験と実績を持つプロの弁護士だからこそ書ける、信頼性の高い一次情報などを発信しています。

弁護士歴(抜粋)

  • 1992年

    司法試験合格

  • 1995年

    福岡県弁護士会に弁護士登録

  • 2004年

    整理回収機構 九州地区顧問 就任

  • 2006年

    菅藤法律事務所を設立

公的役職歴(抜粋)

  • 2010年~

    日本弁護士連合会「市民のための法教育委員会」副委員長

  • 2010年~2013年

    福岡県弁護士会「法教育委員会」委員長

  • 2014年~

    福岡県弁護士会「ホームページ運営委員会」委員長

  • 2015年~

    福岡県弁護士会「交通事故委員会」委員

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