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交通事故での車両修理費の決定過程に関する深い専門知識

  • 更新日:2025.9.1
  • 投稿日:2025.9.1

札幌弁護士会所属の中島圭太朗弁護士の講演録の中から、一般的な交通事故の書物に掲載されていない情報を拾い上げました。

第1、塗装のこと
 塗装明細には、塗装する部位と塗装面積dm2が記載されているが、塗装面積は損傷のその箇所よりも3倍程度広くなるのが通常である。色合わせのためのボカシ塗装も混在する。

第2、指数とレバーレート
1、指数とは、自動車修理における標準的な作業時間を示した数値。(株)自研センターが算定したもの。たとえば指数8・0というのは実務経験3年程度の技能をもった技術作業者1人が8時間で可能な作業内容という意味。
 ただ実際には、ほかの作業との兼ね合いというか連結相性もあったり、作業ブースの専有度さらには修理工場の休みの並び方などによって指数とおり作業できるとは限らない。

2、レバーレートとは、整備工場やディーラーが定めた1時間当たりの工賃単価のことで、工場の立地条件や特殊な整備装置の有無などによって修理工場の採算ラインが異なってくる(例:大都会の工場のほうが田舎よりも家賃や作業員の時給も高いのでレバーレートも高くせざるを得ない)。
 一般に、整備工場では7000~1万円が相場、外車ディーラーでは1万円~1万5000円が相場と言われている。損保会社のアジャスターの中には物価高騰前の旧態依然の単価に固執することもある。

3、修理費用が適正でないという争いをされる場合、その損傷がないという否認なのか、本件事故によるものではないという否認なのか、修理内容が過剰(例:板金で済むのに交換している)という否認なのか、部品単価やレバーレートが高いというむしろ修理工場との争いに帰結する否認なのか、具体的に区分してもらう必要がある。   
 例えば過剰でないとかレバーレートが高いという否認であれば、そうではないという意見書を修理工場に出してもらう必要がある。

第3、当該事故による損傷部位か争いがある場合
 1、損傷それ自体の存在の立証責任、直接損傷以外の損傷部位が当該事故によりどのようなメカニズムで損傷するのかの立証責任(言いかえれば別事故による損傷ではないことの立証責任)、いずれも争いになった場合には被害者に帰着される。
 だから、写真についても、損傷部位や形状が明らかになるように、クローズアップ・ミドル・ディスタント、このように様々に撮影しておくことが望ましい。損傷部位のアップばかりだと、全体ではどの部分なのか写真だけでは後日わからなくなってしまいがち。

 2、波及損傷とは、直接損傷した部位に外力が加わったことによって、その外力がほかの部位にも伝わって損傷が起きることである。
 例えば、フロントバンパーが直接損傷し、その際の衝撃がフレームやサイドメンバーに伝わり、歪みや変形を引き起こすとか、ドアやボンネットといった外板パネルが直接損傷し、その際の衝撃がヒンジやロック機構を介して車体に影響を与えるなどである。
 波及損傷の場合、外力が伝達される経路を部品図をもとに検証できてその検証が科学的に合理的ならば、推論による認定が可能である。

 3、誘発損傷とは、直接損傷を受けた部材の変形が、波及経路にない別の部材の押しや引きのチカラを加えることで生じる損傷である。通常想定される波及経路にはない部材の損傷であるため、因果関係が争われることが多い。

 4、慣性損傷とは、衝突による慣性力によって積み荷やエンジンなどが移動し、車内の装備品や部品に衝突することで生じる損傷をいい、急ブレーキや衝突の衝撃で積み荷が前進しシートやダッシュボードを破損させるなど。積み荷の動きなどを写真で証明する必要がある。

 5、そもそも直接損傷といっても、外力が直接作用した場所がバンパーなど樹脂パーツである場合には注意を要する。樹脂パーツは可塑性が高く、もともと衝撃を吸収するために採用されているものだから、外力が取り除かれた瞬間の弾性により、事故前後で一見なんの変化もないように見えることもある、塗装にも変化がなかったり。
 しかし、一度凹んで元に戻っているとき、よく調べると樹脂パーツの裏側が割れていたり内部のブラケットが変形していたり、塗装についても変化がないようでいったん変形して元に戻る過程で細かな割れが生じていることもある。
 なので樹脂パーツについては、しっかり目視で損傷の有無を確認し損傷部位があることの証明手段として接写して写真を確保しておくことが大事である。

 6、最近、アジャスターが社内クラウドにデジタル保存する関係で、データ自体がすぐに保存期間を満了して、手に入るのは不鮮明な紙印刷カラー写真のみという事態が珍しくない。紙印刷カラーだと、プリントアウトを経て解像度が落ちてしまう弱点が露見することになる。

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