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静岡地裁浜松支部1969/9/26交民集2巻5号1385頁です。判例集には、義理の両親と亡くなった息子と嫁の名前が実名で掲載されています、これも時代でしょうね。
息子Aが交通事故で亡くなりました。息子Aとその妻Bと、息子Aの両親Y1Y2は別居して生計も別でした。
息子Aが交通事故で亡くなった直後、両親Y1Y2は法律相談所に行って、妻Bに子どもがいなければ、Y1Y2も息子Aの加害者に対する損害賠償請求権を相続する権利があることを知りました。
その後、Y1Y2は、妻Bが妊娠2カ月であることを知りました。妻Bが出産すると、Y1Y2の相続権は無くなります。
そこで、Y1Y2は、なんと、妻Bの母や仲人を集めて善後策を協議し、妻B自身は出産を希望したにもかかわらず、妻Bにお金を渡して、妻Bに中絶処置をとらせたのです。
その際、Y1Y2は、妻Bにもし子供を出産したら妻B自身が将来困窮するだろうし、Y1Y2も生まれた子供の養育は一切援助しないとたくみに説得しました。
そして、妻Bが中絶した後、妻Bに自賠責保険金が交付されると、なんと、Y1Y2は妻Bを相手取って、その半額を法定相続人である自らに交付するよう民事訴訟を提起し、争いを回避したかった妻Bはほぼ半額に近い額をY1Y2に渡すという、要求に応じる示談を交わすにいたりました。
その後、Y1Y2は、自賠責保険金を超える損害の法定相続分を、息子Aの加害者に請求しようと、この民事裁判を提起したのです。
Y1Y2の息子Aの加害者に対する賠償請求は、Y1Y2に相続権があるにもかかわらず固有の慰謝料含めて全額棄却されたのですが、その理由説示が北斗の拳でいえば「てめえらの血はなに色だ―!」と徹頭徹尾裁判官がY1Y2を非難する怒り心頭のものでした。よくこれだけの事実が顕かになったものです。
裁判官が法形式よりも社会正義を徹頭徹尾追求して大胆な判決を出した稀有な事例ですので、ここに紹介します。
【Y1Y2は、本件事故に基づく損害賠償請求権の相続権を確保するために、妻Bに対し堕胎を教唆ないし幇助したことがうかがわれる(胎児が生きて生まれれば相続権を失うからである)。
しかも、最初は、いかにも妻B自身の将来の生活の不安を懸案するかのごとく装い、妻Bが胎児を中絶するや否や、その生活に不安のある妻Bに対し逆に自賠責保険金の半分という大きな額を、Y1Y2自らは何ら不自由のない経済生活を営んでいながら、訴訟の力を借りてまで強要したというのである。
要するに、Y1Y2は、このように息子Aの遺された妻Bを極度に狡猾冷酷に搾取した点において、息子Aが健全に成長するのを希求していた忘れ形見の胎児をもこの世から抹殺するに至らせたという点において、息子Aが築き上げた家庭を破壊し、息子Aの意志を蹂躙したものといえる。
しかして、Y1Y2はこのような意志蹂躙行為自体を手段として、息子Aからの相続権を主張しているのでであるから、このような相続権の主張は、民法891条1号及び民法892条所定の場合と同等の反社会性を有するものというべきであって、権利の濫用として到底許すことはできない。従って、Y1Y2は、本件事故により生じた息子Aの損害賠償請求権の相続権を主張できない。
次に、Y1Y2が本件事故につき民法711条に基づく固有の慰謝料請求権を持つかどうかの点については、Y1Y2は故人の遺志を全く蹂躙しているのであって、故人の死を飽くことを知らぬ利欲実現の手段としてのみ考え、故人に対する真の愛情の片りんだになきものというべく、従って、息子Aの死亡により慰謝料を受けるだけの精神的被害を受けた事実は全くないから、固有の慰謝料請求も根拠がない。
以上の次第で、Y1Y2は、本件事故につき何らの請求権をも主張できないことは明白である。】