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Q:福岡県大川市の交差点で歩行者用信号青にしたがって道路を横断していたところ、右側から赤信号を無視して直進してきたクルマの左ミラーにガスッと手を接触されました、私はさいわい倒れませんでした。
加害車両はその場を立ち去り事故から30秒後ほどしてから300mほど離れた位置にようやく停止しました。車から降りてきた加害者のところに行ってなんですぐ当たった場所ですぐ止まらなかったのかと詰めたのですが、左ミラーがなんか当たった音がしたけど人身事故が起きたとは思わなかったし、後ろをみたら歩道に人が立ったままだったのでもしかしてさっきの音は当たったのではないかと思い直して念のために停止したと言い訳してきました。
警察には人身事故が起きたと私が110番したのですが、この加害者の行動はひき逃げというべきではないのでしょうか?
A:東京高判2017/4/12判時2375&2376合併号219頁の事例を参考にしました。
ひき逃げというのは道交法72条違反を指します。道交法72条は「交通事故があったときは、加害者は直ちに車両の運転を停止して、負傷者を救護しなければならない」「かつ、警察官が現場にいないときは、直ちに最寄りの警察署に交通事故の状況を報告しなければならない」と、加害者に救護義務と報告義務を課しています。なお報告義務に関してはその場にいる目撃者などが110番していれば加害者自身が重ねてそれを110番せずともよいと実務上扱われています。
とはいえ、この加害者は交通事故の起きた横断歩道で直ちに車両を停止することも車を当てた被害者を救護することもしていないのですから、被害者が立腹して当然の事態といえます。

前記東京高判2017/4/12では
「加害者がもし接触した瞬間に人身事故の発生を認識したならば、その時点で救護義務や報告義務が発生したことを認識したことになり、にもかかわらず、接触した現場を離脱するのは義務の不履行ともいえる。
しかし、加害者は、その後短時間のうちに事故現場から300m程度しか離れていない位置に自らの意思で車両を停止している点を鑑みると、道交法72条違反の不作為があったとまで問疑するには疑問がのこる。
すなわち、救護義務の履行・報告義務の履行と相いれない行動をとれば、ただちに道交法72条違反の不作為があったということにはならず、道交法72条違反を問疑するには、事故発生から一定の時間的場所的隔離を生じさせて、もはや救護義務や報告義務の履行と相いれない状態にまで至ったことを要する」
と説示したのです。

前記東京高判2017/4/12の判例評釈として、平成30年度重要判例解説162頁で松尾誠紀北海道大学教授は
「道交法72条違反にあたらないと猶予する範囲は状況に応じて異なる。例えば、交通事故発生の認識時点が事故の瞬間であるならば、履行すべき義務の内容は、被害者への直接的な救護・道路状況に応じた危険防止など多数に及び、なすべき行動は多くなるし、かつ、猶予の範囲も小さくなる。
これに対し、交通事故発生の認識時点が場所的時間的に事故現場から離れてようやくその認識を持った場合には、認識するまでの間に他者による救護活動が行われることがあるため、事故現場への引き返しが遅れてしまってもそれが救護活動に与える影響は小さくなるし、その結果として、猶予の範囲も大きくなる」
と説明しています。

たしかに道交法72条を適用すべきかどうかにおいては、行動を起こす前提となる交通事故の発生を認識する必要があるので、それを直ちに認識しなかった者にも救護義務や報告義務を果たしていないと責任追及する理屈は故意責任の原則に抵触するため、交通事故の発生を直ちに認識しなかった者については直ちに認識した者に比べると適用を躊躇すべき場面が広がるということは理屈の上では理解できます。
ただありていに言えば、慎重に事実認識する者に比べてうっかり者が猶予される便益を広く享受できる事態ともいえてしまいます。
なので、交通事故の発生を直ちに認識しなかったと弁解する加害者については、さらに、交通事故発生を直ちに認識しなくても当然な状況だったのか、これを積極的に主張立証して初めて道交法72条の適用免除を認めるのが相当と考えます、ただしこの解釈を採用するには道交法72条の法改正を必要とするもので、現行法の体裁では交通事故発生を直ちに認識しなかったとさえ弁解すればひき逃げの条文の適用は免れやすくなっていると言わざるを得ないように思います、交通法規における正義がどこにあるかの次元というより法解釈の限界です。