弁護士費用特約により交通事故の訴訟件数(簡裁)が急増中

    読売新聞2014/10/25朝刊が<交通事故訴訟 10年で5倍><弁護士、報酬が目的~支払い増、損保悲鳴>というタイトルの記事を掲載していました。

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    まず、新聞記事に挙げられている統計数値は次のとおりです。
1、交通事故訴訟が全国の簡易裁判所で急増し、平成25年の提訴件数は10年前の5倍の1万5428件にのぼった(10年前は3252件だった)。
原告や被告に弁護士が就く割合は59%から93%にあがった。
2、平成25年の最高裁統計では、請求額40万円以下の訴訟が6割超を占めた。
平均審理期間は4・1ヵ月から5・5か月にのび、控訴率も18・6%から24・2%にのびた。
3、弁護士費用特約は平成12年、日弁連と損保各社が協力して商品化された。契約件数は平成24年度で約2000万件に上る。

次に、裁判所からの急増についての弊害感想が紹介されていました。
α:弁護士が意図的に訴訟を長引かせてタイムチャージを多く獲得しようと、和解を促しても和解を拒んで証人尋問や判決を求めたりを疑いたくなることが多い。
β:勝訴の見込がないのに控訴したりする事例が多数見られる。簡裁で急におかしい判断が増えているわけではないのに。控訴率があがっているのは弁護士が控訴を勧めているのではないかと疑いたくなる。

続いて、弁護士費用を負担する損保会社からのクレームです。
A:弁護士からの請求が高すぎる。不透明な根拠の場合がある。例えば、20万円の賠償を得るために、80~90万円の弁護士費用を請求されたケースがあった。
B:弁護士保険の収支が赤字になった会社もある。小さな事故が訴訟になるのを防ぐには弁護士への支払を抑えることも必要になると考える。
C:欧米の保険会社は、少額訴訟は弁護士費用の支払対象から外すと約款で定めている。
D:日弁連LACでは、実態把握のため情報収集を始めており、弁護士費用の請求額に疑問があるケースを審査する第三者機関の設立も検討している。

最後に、こういう現象が起きた原因が新聞記事なりに分析されていました。
Ⅰ、軽微な物損事故の場合、弁護士費用特約が無い頃は、弁護士費用の方が高くなるので、提訴せずに示談で済むことが多かった。
だが、弁護士費用特約を利用すれば費用倒れの心配がなくなる。
Ⅱ、しかし、審理の長期化などで弁護士へ支払う費用が過大になれば、結局は、保険料の値上など保険加入者の負担増につながる。
損保会社は、事故における加害者への請求額より多額の保険金を支払う案件の急増に危機感を高めている。
Ⅲ、交通事故訴訟件数(簡裁)の急増は司法改革による弁護士の増加と無関係ではない。平成18年最高裁判決により過払請求が爆発的に増加したが、平成21年に提訴件数はピークとなり、この頃から弁護士が物損事故訴訟に軸足を移したようである。
Ⅳ、ある弁護士は「弁護士費用特約を利用した依頼者は、弁護士費用を自分で出す必要が無いので弁護士任せになり結果を気にしない人もいる」「弁護士にとっても物損事故は割の良い仕事だ。」と話す。

福岡で交通事故(人身被害)を専門的に取り扱う弁護士として、違和感を感じた部分がいくつかあります。
1つには、αとβの箇所です。弁護士が意図的に訴訟を長引かせることは普通できっこありません。依頼者に控訴するよう煽ってもそうなびいてもらえません。
だって、ほとんどの依頼者が早い解決を希望しているのですから。好き好んで、訴訟が長引くことを選択する人なんて今だって圧倒的に少数ですよ。
まして、双方当事者がきちんとした主張立証を尽くせる手続が保障されてこそ、市民に裁判を受ける権利が実質的に保障されるといえるのですし、勝訴の見込がなければ控訴してはいけないかのような口振りは問題外です。地裁で完膚なきまでに敗訴した当事者が高裁で完全逆転勝訴したケースは枚挙に暇がありません。

ではなぜ1や2のような現象が生じているか。私の体験からは、かつて費用倒れが怖くて埋もれていた案件が、費用倒れのリスクをなくしたことで掘り起こされただけにすぎません。
      従来話し合いで済まされていた案件というのは、必ずしも納得して示談していたのでなく、費用倒れのリスクから泣き寝入りしていたという人が実はかなりいたというだけのことと思います。

例えば、物損で20万円の事故があって、過失割合の修正要素の適用があるか否かで、被害者の受け取れる額が18万円(被害者の過失1割)なのか、14万円なのか(被害者の過失3割)という見解の差があったとします。
この場合、交通事故被害者にとっては4万円の差を埋めるため、自分の納得できる18万円を獲得するために、弁護士費用をかけることができたかというと、その4万円以上の弁護士費用がかかるのが普通です。
それじゃ、幾ら相手から提示される14万円に納得がいかなくても、差額4万円UPをもとめて、弁護士に依頼したり提訴したりは選択できないわけです、普通。
むしろ、弁護士費用特約の導入により、かつて泣き寝入りしていた法的需要を掘り起こすことに成功したと、この統計から読み取るべきではないでしょうか。

次に、Aのケースですが、示談交渉でもましてや訴訟になると、一定の手間(書類作成・事情聴取・現場確認・法廷活動)を省略することはできません。省略したら弁護過誤です。
この一定の手間の質量は相手への請求額の高低に左右されるものでなく、主に事案の性質に左右されます。つまり、被害者のために弁護士が行う作業の質量は、請求額が低い事件であっても少なくて済むわけでは全くないのです
まして、物損の場合は実況見分調書が作成されず、ごく簡単な物件事故報告書が警察で作成されるだけなので、のちのち事故の際の双方の言い分に食い違いが現れたとき、これをハッキリさせるために証人尋問を行わざるを得ないケースが人損よりも多くなりがちなのです。
だからAのケースのように請求額を弁護士費用がはるかに超えている状況は一種の病理現象ではあるのですが、そうはいっても、その病理現象を生み出している原因が弁護士にあるという帰結は必ずしも正しいとは言えません。

そして、先ほど病理現象という指摘をしましたが、欧米の保険会社はCのように病理現象を画する方法を約款で規定しています。
私も公明正大に病理現象を解消するつもりならこの方法が適正だと思います。
保険は商品でもあるのですから、これが病理現象と思うのなら、保険を自ら販売する損保会社自身が約款の改訂という、購入者に明らかになる手段で解消するのが筋ではないでしょうか。
ある事案で弁護士が過大請求しているか否かは事案の個性により判断が分かれてしかるべきで、にもかかわらずまるで全ての弁護士が過大請求をしているかのごときBのようなやり方で損保会社の負担を抑えることには非常に抵抗を感じます。約款に明記しない形でそんな運用を損保会社が始めたら、真面目な弁護士ほど労働と対価が見合わないと手を抜くようになるリスクだってあるのですから。

そのほかⅣの感想も私の体験とは全く合致しません。多くの弁護士は、物損を日弁連LAC協定に即してタイムチャージで引き受けているのでしょうが、その料金水準は普通の弁護士にとってどうにか事務所経費の支払とトントンのようです。
また、自分でお金を出していなくても自分が幾ら受け取れるかということに無関心な人はいません、そんな人ならそもそも弁護士に依頼するすら思いつかないからです。そのコメントした弁護士は新聞記者に媚びたのではないかと思うくらい実感とそぐわないです。

あと、そもそも裁判所がメディアの取材に公式に応じることは非常に稀です。ですから、記者が仲の良い公務員からかつてちょこっと聞いた話を、記事の趣旨に合致するように改変した可能性もあるえることを、指摘しておきます。

これまで新聞記事に長々と意見を繰り広げてきましたが、少なくとも弁護士費用特約は交通事故被害者にとって泣き寝入りしないために絶対に加入しておいた方が良い保険であることは、これまでの経験からも断言できます。
交通事故(人身被害)でお困りの方は、ぜひとも豊富な解決実績を誇る、福岡の弁護士 菅藤浩三(かんとうこうぞう)までご相談ください。