菅藤浩三ブログ
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暴力団排除条項は、全国の都道府県で設けられている暴力団排除条例の中で、暴力団が社会経済活動に介入して利益をむさぼることがないよう努力する義務が企業に課せられたことを踏まえ、企業が暴力団との契約を遮断できるよう、ここ数年で企業と一般市民との契約文言内に付加されることになった条項です。
例えば、ホテルに暴力団員から結婚式や披露宴の申込があったのち、その申込者が暴力団員であったことが判明したケースで、ホテルからの暴力団排除条項による解除を適法とした大阪地裁2011/8/31金法1958号118頁、そして、
暴力団員と関係があったことを理由にある中日Dの私設応援団に球場での応援や入場チケットの販売そのものなどを拒否したNPBの措置を適法とした名古屋高裁2011/2/17判タ1352号235頁といった裁判例があります。
そんな企業による暴力団排除条項の典型例で、
①暴力団員が自ら保険に加入したり被保険者になったり暴力団員を受取人に指定することを禁止し
②加入後にそのような暴力団員との関連が判明したときは保険会社は保険契約を解約できるし
③保険事故が解約前に発生した場合であっても保険金を支払わない
という条項が、生命保険契約のほとんどに見受けられます。
さて、暴力団員のシノギに事故偽装による保険金詐欺がよくつかわれます。ときどきニュースでもみかけます。
「暴力団員が保険を利用できなくすれば、暴力団員は保険金詐欺もできなくなるでしょ」と、生保にならって損保でも暴力団排除条項を全面的に導入しようという動きがありました。
しかし、損保の扱う商品には、生命保険と似ている傷害保険や火災保険もありますが、これらと自動車保険とは決定的な違いがあります。
自動車保険でいう保険事故では、暴力団員以外被害者が生まれることがほとんどということです。
傷害保険や火災保険の場合、保険事故が起きた後に保険金を受け取るのは保険契約者だったり指定受取人だったりと、保険事故発生前の時点で、保険事故により保険金を受け取る者が特定されています。いわば、保険契約時点で特定された人物の損失を埋めることを専ら目的とする保険といってよいでしょう。
しかし、自動車保険の場合、人身傷害保険や車両保険のように、保険事故発生前の時点で特定された人物に発生する損失を埋める商品もありますが、メインの部分は対物保険や対人保険のように保険契約時点で受取人(≒交通事故被害者)が特定されていない、だから、その交通事故被害者の損失を埋めても暴力団を不当に利するような事態は起きないという厳然たる違いがあるのです。
仮に自動車保険に暴力団排除条項を導入してしまえば、暴力団員にとって自動車保険に加入するメリットが非常に薄まるので(交通事故を起こしたときはきちんと交通事故被害者を補償したいという殊勝な暴力団員しかメリットを感じない)、暴力団員の運転するクルマは全て無保険車両ということになりかねず、一般市民の安心を著しく損なう深刻な事態になりかねなかったのです。まさに’角を矯めて牛を殺す’改悪となるところでした。
もし「暴力団員が関連する場合、一般被害者のいる対人対物保険だけは依然有効だけど、搭乗者傷害や人身傷害や車両保険といった契約者を利する部分だけ一部無効にする」という約款にしたなら、一見バランスがとれているようにみえるのですが、そんな一部無効約款は殊勝な暴力団員にとってだけメリットがあるにすぎず、保険料が勿体ないと思いやはり暴力団員の自動車保険加入率が下がってしまうでしょう。
そう考えると、自動車保険に限って暴力団排除条項を適用しないという現実路線を損保各社が選択したことに私は誠に安心した次第です。理想と現実を調和させるのは簡単ではないですが、理想論ばかりに走ってはいけない好例ですね。