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一見追突もどきの事故だと、過失ゼロで扱われるとは限らない

  • 更新日:2024.11.24
  • 投稿日:2024.11.24

  四輪車同士の事故を前提とします。
     一本車線を前車と後車が直進移動中に、後車が前車に追突したときの前車の過失はゼロです。ゼロとされる理由は、後車には、前方注視義務違反(前車の動きについて観測が不十分だった)と車間距離保持義務違反(道交法26条)の過失があるのに対し、前車には真後ろの後車の動静についてただ直進移動しているだけのときは何らの注意義務も課せられていないからです(別冊判タ38号293頁解説)。
 

Road traffic accident. Two passenger cars collided on the road. Minor damage without injured people.

 では前車が道路外から車道内に左折進入し左折完了後に前車がしばらく直進したのち車道右方から直進接近してきた後車に追突されたときはどうか?別冊判タ38号【148】図解説では抽象的な言及があります。
 もともと、この別冊判タ38号【148】図では、道路外から道路内に左折進入した前車と、道路内右方から直進接近した後車が追突でなく出会い頭衝突した場面を累計事故として設定しており、前車8:後車2と基本数値を設定しています。
 むしろ前車の過失が圧倒的に重いと評価される理由は、たしかに、後車には追突一般で見受けられる前方注視義務違反も車間距離保持義務違反もありますけれども、他方、前車には道路外から車道内に進入する際は右方から接近してくる車両など車道を走行するほかのクルマの交通の流れを妨げてはならない義務が道交法25条の2で課されており、前車が課された義務に違反して左折を強行した行動のほうが後車にくらべよほど義務が重いと評価されています。

 さてこの別冊判タ38号【148】図解説では、前車が道路外から車道内に左折進入し左折完了後に前車が『しばらく直進』したのち車道右方から直進接近してきた後車に追突されたときは、左折完了後にしばらく前車が直進した間隔が大きければ普通の追突と同様に扱うべきだし、間隔がそう大きいといえないときは、具体的事情に応じて、別冊判タ38号【148】図の基本割合と追突事故のゼロ百の場合との中間値をとって解決するようにと示唆されています。
 『しばらく直進』と表現した間隔は何秒くらいなのか何メートルくらいなのか、別冊判タには全く言及されていないので手がかりとしては不十分なのですが、この解説部分は、接触の瞬間にごく限定すれば追突であるものの、接触の前の状況を広くみれば追突もどきは前車に過失ゼロとする追突とは同視できないと評価される場面が類型的にありえることを示しています。

 路外からの左折進入ではないですが、実例を挙げます、大阪地判2021/3/13自保ジ1464号22頁です。

 片側2車線の南北車線を後車が北方面に移動中。前車はその後車の対向2車線北南車線の横の東側路外にいた。後車からみて対向2車線北南車線が渋滞で前車は進入することをゆずられたので、対向2車線北南車線を横切って、前車は片側2車線南北車線の第2車線に右折進入した。
 他方、後車はもともと片側2車線南北車線の第1車線を走行していたものの、第1車線前方のトレーラーに追いついたので追い抜こうと南北車線の第2車線に車線変更したところ、南北車線の第2車線に右折完了して進入した前車に追突した。

 裁判所は、前車には片側2車線の南北車線の第2車線に車道を横切ったのち右折進入する際、第1車線走行中のトレーラーの後方にいた後車の存在を見落とし、トレーラーの後方には車両がいないものと軽信して対向車線を横切って南北車線の第2車線に右折進入した過失があり(右折進入する際の側方注視義務違反)、同時に、後車にはトレーラーの後ろで第1車線から第2車線に車線変更する際に、第2車線の前方の安全確認が不十分で路外から対向車線を横切って片側2車線の南北車線の第2車線に右折進入しようとしていた前車の発見が遅れた過失がある(車線変更する際の前方注視義務違反)、双方それぞれの過失が競合していると指摘しました。
 そして、過失としては前車の過失のほうが後車の過失よりも大きいとして、前車75:後車25としました。路外からの車道右折進入車両と対向車線直進車両の出会い頭衝突の基本割合は別冊判タ【147】図で直進車両20:右折進入車両80と設定され幹線道路修正で直進車両に5有利になっていますが、上記裁判例では双方車両の出会い頭衝突でなく直進車両が右折進入車両に追突もどきで接触する格好になっていても、これに近い過失割合を適用しています。
 このように、追突もどきといえる交通事故の場合、追突もどきであっても、追突された側にも過失を問われる態様の事故では過失ゼロで扱われるとは限らないようです。

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