菅藤浩三ブログ
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私が参加している異業種交流団体主催の、吉冨学社長の2時間の講演をさっき拝聴しました。とんこつラーメン一蘭といえば、TVのランキング番組でも何度も登場している著名店ですよね。博多にとどまらず全国にもたくさんのファンがいます。吉冨社長は20年前に一蘭1号店をオープンして今ここに到達されています。
タイトルは「一寸法師戦略~弱者が強者に勝つ為の戦略」というものでしたが、いまや一蘭はラーメン界の巨人にのぼりつめたわけで、1店舗から巨人になる過程に至る中で吉冨社長が実践された戦略の数々を、適宜説明されました。
とにかく吉冨社長の分析能力は卓越しています。2時間の講演で200頁はゆうに使用されたんじゃないでしょうか。100頁ということはないですね、それはそれは膨大な情報量でした。
極端な話、SWOT分析とか「帰ったらネットで調べて下さい。基本ですから」と5秒で済まされましたし。なにせ、吉冨社長はかなうなら、この講演で伝えたいことを余すことなくしっかり伝えるには3か月間の講義の時間がほしいと言っていたくらいの情報量なんです。
かつて大学の講義で早口に慣らしていた自分でも5分の1も書き取れませんでした。あのパワーポイントのシートを書物に変換してもらいたいですね。
そんな感じで、私がメモすることができたのはほんの一部に過ぎません。しかし、いちラーメン屋さんが企業に変貌する過程で、膨大な情報をうず潮のように取り込んでいる実態を目の当たりにできたので、ほんとうによい時間を過ごせました。
1、歴史は繰り返すというが、時トコロ登場人物は違っても、その出来事の本質を深く洞察してみると、同じパターンを見いだせることが多い。つまり、未来にどんな変化がもたらさせるかのヒントは過去にある。
ヘーゲルの弁証法にいう「螺旋的発展の法則」さえ学んでおけばよい(by田坂広志)。 吉冨社長は書き手紙(形に残る)→電話(すぐ応答できる)→メール(形に残りすぐ応答できる)とか、競り→定価販売→ネットオークションを例に、あたかも螺旋階段をぐるぐる回りながらのぼっていくように物事は発展していくという例を挙げていましたけれども、卑近な例ではおニャン子クラブ(秋元康)→モー娘。(つんく)→AKB(秋元康)みたいなもんです。
2、ブランド構築の大切さを何度も強調されていました。吉冨社長いわく、ブランドとは人の記憶にねばりつくイメージであり、ブランディングできれば潜在顧客に強みが伝わり無料の広告が打ててるとの同じだと。
IT浸透で消費者がやたら目が肥えてしまっている今、弱者が強者に勝つ為にはこの点に戦略を集中させなければならず、一蘭が同業他社にない取り組み(例:味集中カウンター、従業員専用の図書館を設置)を次々と導入しているのも専らブランディングの視点からだということでした。
ルイヴィトンがTVCMを打たずバーゲンをしないのも、トヨタが高級車を売るためにわざわざレクサスを立ち上げたのもブランディングが企業資産の過半を占める現代社会をわかっているからだとの分析をされていました。
ブランディングを強化したい会社は、経営戦略コンサル会社「ローランドベルガ― ブランドマネジメント」で検索すれば無料PDFが簡単に手に入ると教えていただきました。
3、逆に一貫性を妨げる二兎商品はかえってマイナスになることも、具体的な企業名と商品名をあげて指摘されましたが、消費者として非常に得心できる例示でした。例えば、魚料理屋で普通よりも旨いトンカツを用意しても普通食べたいとは思わないでしょう、それは魚に強いというブランドの力を分散させて削ぐことになるからと言っていました。
4、差別化のために競合他社の徹底研究(競合分析といいます)を行い、完全な模倣はNGだが、良い面を取り入れたうえでその上で一本の違いをつくることを意識するよう言われました。たしかにラーメンは同じとんこつベースでも店によって違いもあるし、競合分析がとても大事だと思います。
例えば、ウェブサイト同士の競合分析だと、ターゲットユーザー・提供商品・メディア活用術・SEO・コンテンツ・操作性・視やすさ・色使いの項目をさらに細分化していますしね。
ほかに、差別化の手段として物語化も紹介されていました(例:ディズニーランドはおとぎの国ともいえるし、うそっぱちでつくりあげた空間ともいえる。後者にならないのは物語化を一貫して追求しているから)。
5、問題解決の手法として水平思考(既存の理論や概念にとらわれずアイデアを生み出す)を紹介されていました。水平思考でなじみがあるのは、多湖輝教授の頭の体操シリーズですね。
吉冨社長はオズボーンの9のチェックリスト(転用=ほかに使い道がないか?・応用=ほかに似たものはないか?・変更=形や色を変えたら?・拡大=大きくしたら?・縮小=小さくしたら?・代用=ほかのものと置き換えたら?・再利用=並び替えてみたら?・逆転=逆にしたら?・結合=組み合わせてみたら?)を、日々の業務で常に意識されているそうです。
6、吉冨社長は、人は感情の生き物だから、自分ではなく受け手がどう感じるのかを考えてビジネスは展開しなければならないと言っていました。
赤身80%と脂身20%では同じ肉であっても受ける印象はまるで違うとか、高級ブランドのハンカチに包んで渡された100円と新聞紙に包んで渡された100円では、同じ金額でも前者だとたぶん受け取り手はケチ!と反感を持つはずという例を挙げておられましたが、私の仕事でいえば同じ内容を話しても弁護士バッヂのある人と司法試験受験生とでは受け手への浸透度が違うということですかね。
7、ビジネスで拙いのは茹でガエルのように、変化をおそれて一か所にとどまり続けることと言われていましたが、それには異論ありません。
ただ、新しいことを始める時それが成功するかどうかは不確定なのですが、吉冨社長の【そのはじめようとしていることを仮に同業他社が先行してやったら、やられた悔しいと思うか、アホだなあと呆れるか、その感情によって決める】という基準はとても新鮮でした。前者だと始めるし、後者だと辞めるそうです。
ほかにも、新規事業を始めるときは内部に反対者が多いほど成功したときのリターンも大きいそうです。たしかに同業他社は二の足を踏むわけですから、いわゆるブルーオーシャン戦略ですよね。
8、マウスイヤーのいま、小さな変化に気づき、素早く対応していける人が本当のアタマの良い人だと吉冨社長は言われていました。知識の分量だけならしょせんコンピューターに負けるのですから。
そのほか、交渉力を身につけたいなら、ゲーム理論の入門書を使って、いろんなゲームでお互いにやりあうことが有効だとも紹介されていました。ゲーム理論の分かりやすい実践例はカイジのEカードですね。
9、上記のとおり、ラーメン屋さんを飛び越えてコンサルティングの人にしか思えないほど豊富なお話を吉冨社長から聞けましたが、全ての源泉は読書だそうです。ビジネスだけでなく、人のココロの話も多くは本で分析方法を学んだそうで、講演とか聞きに自分で行ったことはないそうです。
若い頃は美味しいラーメンと金儲けの2つを追っていたが、社長が金の亡者になると部下も金の亡者になることを実際に経験し、とにかく人間力を高めることに傾注されるようになったそうです。今でも海外に行く際に10時間くらいのフライトがあると、20冊くらいの本を積んで飛行機に乗っているそうです。
これから勉強していくたくさんのネタをいただけて大変有益な時間を過ごすことができました、改めて吉冨社長、講演していただきありがとうございました。講演直後、中洲の一蘭にラーメンを食べに行ったのは言うまでもありません。