菅藤浩三ブログ

将来、交通事故の逸失利益の計算方法(中間利息)が変更されるかも

  • 更新日:2016.6.1
  • 投稿日:2016.4.25

将来、交通事故の逸失利益の計算方法(中間利息)が変更されるかも

    交通事故で後遺障害が残った場合、後遺障害が残らなければ本来得られたはずの逸失利益を算出します。
   逸失利益を算出するとき、単純に基礎年収☓労働能力喪失率☓就労可能年数という計算するのでなく、『事故がなければ長年に分割して入ってくる分を、事故があったために一時金として受け取るのだから、一時金として受け取った場合に運用して得られるであろう利息収益分は予め差し引いておく必要がある』と中間利息を控除する扱いがとられています。
  上記説明は 「交通事故の後遺障害や死亡事故でなぜ中間利息を控除する?

    その「運用して得られるであろう利息収益分」の%について、かつて裁判例が分かれていました。民事法定利率年5%を差し引くのは高過ぎという見解です。
   この年5%不当説は、次のⅰ~ⅳの根拠を挙げて年5%が高過ぎると展開し、年3%が中間利息控除の数値としては妥当と展開していました(札幌高裁2004/7/16自保ジ1555号7頁ほか)。実質論としての説得力はかなりのものです。

  ⅰ、中間利息の控除が合理的といえるのは、将来にわたる分割払いと比べて、一括払いを行っても被害者への補償が目減りしていないといえるだけの、経済的利益が一括払いでもちゃんともたらされている場合に限られる。
   そういえるためには、中間利息の控除割合は裁判時の実質金利(=名目金利と賃金上昇率又は物価上昇率の差)でなければならない。

ⅱ、民事法定利率年5%を定める民法404条は、実質金利ではなく名目金利を定めているにすぎず、この数値を中間利息の控除に適用すべき実質金利と同等に扱うべきではない。

  ⅲ、破産法や民事執行法で中間利息の控除に法定利率を用いるよう定めているのは、破産法や民事執行法の場面では弁済期が到来していない債権を対象としているのだから、不法行為時から弁済期が到来し遅延損害金が発生している逸失利益とは、債権の性質を異にするので、適用前提を欠く。

    ⅳ、日本の昭和31年から平成14年までの47年間における1年もの定期預金の金利と賃金上昇率との差がプラスとなった年は16年で、 マイナスとなった年は31年。しかも、プラスとなった16年のうちプラス2%を終えたのはわずか3年、逆に、マイナスとなった31年のうちマイナス5%を下回ったのは16年である。
全期間の平均値はマイナス3・32%であり、特に平成8~14年の平均値はプラス0・25%である。実質金利は多くとも3%をこえるものではない。

これに対し、最高裁2007/6/14判タ1185号109頁は、αとβの理由により、年5%不当説を排斥し、逸失利益を算定する際に適用する中間利息の%は民事法定利率以外は許容しないとの判断を下したのです。

α:日本の法律は、破産法・民事執行法など、将来の請求権を現在価格に換算するに際し、法的安定及び統一的処理が必要とされる場合には、法定利率により中間利息を控除するという考え方を採用している。
被害者の将来の逸失利益を現在価格に換算するにおいても、法的安定及び統一的処理が等しく望まれており、明文はないけれども民事法定利率により中間利息を控除することを予定しているものと解釈する。(実質金利により中間利息を控除することは民法は予定していない)。

β:民事法定利率に統一することで、事案ごとに裁判官ごとに判断が分かれることを防ぎ、被害者相互間の公平の確保・損害額の予測可能性を担保できる。

ところが2014/7/8現在、民法の債権法領域の法改正の中で、民事法定利率について
基本数値を年5%から年3%に引き下げたうえで
②さらに1%の刻みの変動制を付加する形に移行し
③変動させるべきか見直しのタイミングは3年ごととし、過去5年間の貸出金利の平均が1%以上変動した場合に限り法定利率も変動させる
という法務省原案を2015年通常国会に提出するという動きが濃厚になっています。

中間利息が年5%から年3%にあらたまった場合、逸失利益がどのくらい変わるのか、甚だしい乖離が生まれます。

例)年収400万円の30歳、後遺障害3級(労働能力喪失率100%)の場合
年5%の中間利息ならば=400万円×100%×16・711
(37年分の年5%ライプニッツ係数)=6684万4000円
年3%の中間利息ならば=400万円×100%×22・167
(37年分の年3%ライプニッツ係数)=8866万8000円

   民法改正が無事結実した場合、次なる問題は、民法自体はその適用範囲について「何年何月何日以降の法律行為・事実行為に適用」と附則で宣言すれば済むが、例えば、その適用日の3日前の事故ならどうか、1ヵ月ならどうか、1年前ならどうか、衆議院だけを通過した後ならどうか、衆参通過して立法として成立し施行日を待つまでの間の事故ならどうか、、、と適用されるか否かで上記のとおり賠償額が大きな単位で変わってくるため、そこまで附則で織り込んだ立法をしてもらわないと、どの範囲まで改正前の民事法定利率が適用されるのかをめぐって最高裁で統一するまで新たな紛争の種になるように思われます。
事故にあった日が施行日の前か後かだけで割り切るのは余りに酷なケースもあるはずですから。


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