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第1、実際の事例を変形して説明します。長いですが事例の内容は《》です。
《私はウェブデザインの仕事を全国の不特定多数の人からネットで受けている個人事業主です。仕事場は自宅です。
ウェブデザインの仕事というのは年中同じ分量の仕事が均等に発注されるわけでなく、企業では4月期初から新しい動きを見せるリニューアルなどの仕事が多いので、3月はほかの月に比べてかなり繁忙期にあたります、引っ越し業者ほどの落差はないですが、売上はほかの月の1・5倍はあがります。
そんな私ですが、2月終わりにクルマがものすごくへこむ追突事故に遭いました。MRIでは身体に異常はみあたらなかったのですが、首が痛くて腕がしびれて全くパソコンに向かって仕事ができず、3月内に納品しなければならない仕事はすべてキャンセルしました。なお3月の病院通院日数は14日でした。ようやく4月から仕事を開始することができる状態まで身体が回復しましたが、3月は全く仕事ができませんでした。
相手損保に3月は全く仕事ができなかったことを伝え休業補償を内払してほしいと要請しました。相手損保から事故前年の確定申告書を提出してほしいと言われたので電子申告したばかりのそれを送付しました。青色申告しており、事故前年の売上は年間160万円、減価償却費が10万円で、そのほかの通信費や接待交際費を差し引いた所得は年間110万円になります。
すると相手損保からは『確定申告書を拝見しました。自賠責の基準に即して1日6100円に3月の実通院日数14日を乗じた、8万5400円を休業損害として内払します』と言われました。私としては、3月は繁忙期でほかの月に比べて売上が多いのにそのことを斟酌しての計算ではないこと、そして、私は自営業者なので3月に仕事ができなかったというのは30日間まるまるできなかったという意味なのに実通院日14日間しかカウントしないこと、この2点が不満なので内払額を見直してほしいと相手損保に要請したのですが、相手損保は自賠責の基準以上の休業損害は出せないと固辞してきました》

第2、まず、休業損害額の計算方法は1日あたり単価×要休業日数です。ただ、給与所得者は1日あたり単価も休業した日数も勤務先発行の休業損害証明書により証明できるのに対し、自営業者には雇用主がいませんから第三者の作成書面による休業日数や休業損害額の証明という方法がとれません。
そこで自営業者が交通事故で休業を余儀なくされたときの1日あたり単価を算出する証拠として、事故前年の確定申告を利用するのが賠償実務です。
確定申告を利用するといっても、減少したであろう売上そのものが補償されるわけではありません。確定申告の売上でなく、利益にあたる所得の部分の数値と減価償却費のような固定経費を加算して、その加算した金額を365日で割って、休業損害の1日あたり単価を算出する手法が主流に裁判でも採用されています。裁判で採用するということから、賠償交渉でもこの手法で算出するのが原則です。
《》にあてはめますと、1日あたり休業単価は(所得110万円+減価償却費10万円)÷365日=3288円と算出されることになります、これが裁判での考え方です。言い換えれば裁判所では、事故に遭遇していなかった前年の1日あたり所得+固定経費は3288円にとどまるのだから、事故に遭遇した当年も前年の実績を上回るはずだったことが実証できるような特別な事情がない限り、前年と同じ数字を適用することが合理的とみているのです。
この部分を《》にあてはめますと、3月は繁忙期でほかの月に比べて売上が多いという事象が果たして客観的資料により立証できるのか、また、売上があがる月は変動経費も比例して上昇するのが通常なので売上の増加割合と所得の増加割合が比例するとは限らず当該期間の実際の所得は幾ら見込まれるかを事故前年の客観的資料に基づき立証しなければならないという煩瑣な手間がかかることが想像できるのですが、そのような点を周りに納得させるだけの立証資料をきちんと揃えている事態は稀という印象です。結果として、事故前年の確定申告書を使って基礎収入を算出する裁判実務と異なる金額を、別の証拠を使って立証することは非常にハードルが高く事実上無理という印象を受けます。

第3、次に要休業日数ですが、厳密に考えると通院していない日であっても自宅療養していることもあるので、実通院日に限定されるとは限らない半面、職種によっては通院日であっても1日完全休業でなく通院していない時間に仕事をこなしていることも珍しくありません。たとえばデリバリーサービスに従事している個人事業主などは事故前に比べて受傷のために1日の稼働総時間は下がったりするもののまる1日何もしないで自宅で過ごしたりしないことが多いと思われます。
とすると、要休業日数が実通院日にかぎらないとしても1日に占める休業割合が入院している場面のように100%に達するものでなく、平均して1日のうち50%とか30%にとどまると評価されがちです。
《》にあてはめますと、要休業日数が1カ月30日間としても例えば1日の休業割合は平均して50%だと認定されたとしたら、受け取れる休業損害は1日あたり3288円×30日間×休業割合50%=4万9320円にとどまる計算になるのです。

第4、ところで【治療費など含めた損害総額が120万円の自賠責の枠内に収まる限り】相手損保は自賠責の算定基準に即して計算する義務を課せられています。【】の場合には自賠責の算定基準を下回る賠償は認められていないからです。
自賠責の算定基準では、自営業者の休業単価は原則として1日あたり6100円とすることになっています。原則としての意味は、たとえ実際の事故前年の確定申告から割り出される1日あたり所得がそれを下回っていても、あえて1日あたり6100円と設定することを原則とするという意味です、その理由は【】を満たす限り給与所得者への支給額をことさら下回ることのないように被害者を保護するという自賠責ならではの政策的判断に拠ります。
かつ、休業要日数についても、傷害の態様や実通院日数など勘案して治療期間の範囲内で認定する取り決めにになっています。
《》の事例の中で相手損保は実通院日数を休業要日数として計上していますが、この扱いは自賠責の算定方式としてはノーマルです。しかも、この場合に自賠責は休業割合を100%と扱うことにしています、その理由も上記と同じく【】を満たす限り被害者を保護するという自賠責ならではの政策的判断に拠ります。

そのため、自賠責の算定基準に即すると、1日あたり6100円×14日実通院日数(要休業日数)=8万5400円となり、裁判で採用されている計算方法から算出される金額を上回る数値が算出されるのです。
結果として《》の事例においては、勝機なき状況でいたずらに争うのでなく、相手損保が提示するように、自賠責の算定基準に即した金額を休業損害とすると協定することが、被害者にとっても実は得策になったりするのです。