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第1、最初に協調しておくのは、この考えはあくまで私見であり、別冊判例タイムズにこの点に関する見解が明記されていたり、裁判例で言及されているわけではないです。
ですが、疑問を呈されるのも素朴な法感情として理解できるところですし、よく尋ねられるので、私なりの考えを展開しました。
事例は別冊判例タイムズ38号105図に近似。ただし棒線部の修正《信号機のない交差点での出会い頭事故。X車両は優先道路を直進し、Y車両は交差する道を直進していた。Y車両の進行する交差道路には一時停止規制があった》
A:Y車両は一時停止規制に従って一時停止をしたのちに進入。
B:Y車両は一時停止規制に従わず一時停止しないで進入。
第2、別冊判例タイムズ38号105頁を適用しますと、Y車両の進行する交差道路に一時停止規制があるのかいなか、そして、一時停止規制を守ったかどうかは過失割合を修正する要素に組み込まれていませんので、波線の場合であってもAもBも等しくY車両の過失は90%と設定されています。つまり、一時停止規制があるとき、Y車両は一時停止規制を守っていても、守っていなくても、責任を負う割合に差は出ないということになっています。
素朴な法感情としては、棒線の場面では交差点に進入する際にY車両には道交法43条前段の一時停止義務が課されており、AではY車両は道交法43条違反をしていないがBではY車両は道交法43条違反をしている、だから法規違反がないBと法規違反しているAとで同じ過失割合になるべきではないという考えになるはずです。
なお別冊判例タイムズ38号245図では優先道路の直進車両が自転車だった場合、別冊判例タイムズ38号171図では優先道路の直進車両がバイクだった場合が例示されていますが、105図と等しく、Y車両の進行する交差道路に一時停止規制があったかどうか、仮にあった場合にそれをY車両が守ったかどうかによって、Y車両の過失割合を修正する立て付けにはなっていません。
第3、といっても別冊判例タイムズは、東京地裁の交通部という、交通事故に特化した裁判体を受け持つ裁判官複数が協議して数年に1回改訂しつづけたもので、一番最初の第1版は1975年に刊行されました、その後に改訂を重ねて2014年に第5版が刊行されており、非常に歴史が長く、交通事故賠償実務における過失相殺率はこの本をベースに処理されています。
別冊判例タイムズが制作され改訂される過程に鑑みれば、交通事故に特化した東京地裁交通部に所属する裁判官複数で協議する過程で、優先道路に交差する道路に一時停止規制があったりなかったりすることに何十年も何回も改訂していながら誰も気づかない事態は考え難く、むしろ一時停止規制があろうとも、そのときに一時停止して進入していようとも一時停止していなくても、過失割合には影響させないという発想を東京地裁交通部は選択したと評価するのが自然でしょう。
第4、問題はなぜ東京地裁交通部が二重線のような考えを選択したかの探究にあります、ここは弁護士菅藤の完全な私見です。
交通整理がされていない交差点において、交差している道路が優先道路であるとき、車両はその交差している優先道路を通行する車両の進行妨害をしてはならない(道交法36条2項)。Y車両は、交差点に進入する際に、交差する道路が優先道路のときは、その優先道路を通行するX車両の進行妨害をしてはならない。
この道交法36条2項には、Y車両が通行している道路に一時停止規制があればY車両は道交法36条2項に重ねて道交法43条の一時停止を履践しなければならないとは書かれていません。
同時に、道交法42条1号反対解釈は、交通整理がされていない交差点において、優先道路を通行しているX車両は、たとえ左右の見通しがきかない交差点であっても、徐行義務は課されないとなっています。同時に、道交法42条1号は、交通整理がされていない交差点において、優先道路を通行していないY車両は、左右の見通しがきかない交差点に入ろうとするときは、徐行義務を課されると定めています。
第5、この点、最高判1967/7/16判タ225号159頁では、優先道路を走行している車両が、交通整理の行われていない交差点に進入する場合は徐行義務は課されないし(こうなることは文理から当然)、同時に、一時停止規制を受けているY車両は双方の車幅がほぼ等しいときはなお道交法42条の徐行義務を免除されるものではないと言及しています。
私なりの上記最高判1967/7/17の解釈ですが、後半部分が道交法43条前段よりも道交法36条が優先的に適用されることを明言していると判例解釈しているのでないのかなと。つまり道交法43条前段と道交法36条が重畳的にあてはまる場面では、専ら優先適用される道交法36条のみで規律されると。
こういう解釈をすると、Y車両が一時停止をしたかどうかを、優先車両を走行するX車両の過失を左右する要素に含まなくても、もともとY車両の責任は優先適用される道交法36条のみによって規律されているのだから、問題ないという帰結になりそうです。
第6、ただ、もしそのような価値判断の東京地裁交通部が現在至っているとして(残念ながらいち市井弁護士に過ぎない菅藤がそこに異論を放っても蟷螂の斧に過ぎないのですが)、上記最高判1967/7/17に依拠したであろうそのような価値判断を将来にわたり変更する必要がないかはまた別問題と思います。
というのが、波線の場合のY車両は、たとえ道交法36条が優先適用されるという解釈に揺るぎがないとしても、Aと比べてBは一見明らかな一時停止標識に違反する行動をとっているわけで、逆にX車両の立場からすると、Y車両が交差点内に進入してくることはなかろうという期待度は波線の場面では単なる優先道路の場合に比べて高いはずです、一時停止するのが当然の場所なのですから。
そう考えると、いまは別冊判例タイムズでは採用されていませんけれども、優先道路と交差する道路に一時停止規制がある場合に、一時停止せずに進入された場合は、ちゃんと一時停止して進入した場合と比べて優先道路を走行している車両に有利に斟酌するように改訂することが合理的ではないかと弁護士菅藤は考えます。ただし、冒頭に述べたとおりあくまで私見であり、この私見を採用する裁判例はいまだ見あたらないことは付言しておきます。