菅藤浩三ブログ

行政書士の相談報酬の一部が弁護士など費用特約から支払われず

  • 更新日:2016.6.1
  • 投稿日:2016.4.25

行政書士の相談報酬の一部が弁護士など費用特約から支払われず

  弁護士費用特約の契約件数は、日本全国で平成12年度は約7400件だったのですが、平成22年度は約1430万件と、大変なヒット商品となっています。
この弁護士費用特約だけの利用ならばノーカウント事故(=利用しても事故件数としてカウントされず、翌年の割引等級の3ランクダウンはない)ですし、特約をつけた場合のオプション料金は年1200円前後で済む損保会社がほとんどなので、自動車保険に新規加入する場合や更新する場合は、加入しておくことが圧倒的にお得な特約と断言できます

ところで平成10年に自動車保険自由化が始まってから、自動車保険の内容に各社で微妙な相違が現れはじめ、同じ交通事故でありながら、A社の保険約款では弁護士費用特約の支払対象となるが、B社の保険約款では支払対象にならないという事態も、私がご相談受けている中でかなり見受けられるようになりました。

よく見受けられる弁護士費用特約の内容の違いは次のとおりです(保険料の高い安いに必ずしも比例しているとは限りませんが、一般に保険料の安い自動車保険ほど保障内容は薄いです)。
  損保会社はパッケージという形で保険商品を勧めていますけれども、自動車保険に新規加入したり更新する場合には、補償内容が十分かどうかを細心の注意で確認することが大事です。安かろう薄かろうではマズイのです。

被保険自動車に搭乗中の交通事故被害でしか利用できない。また、労災に該当する交通事故被害の場合には利用できない⇔被保険者が歩行中や自転車運転中、さらには労災に該当する交通事故被害の場合にも適用できる(・・・後者が好ましい

・弁護士のほか行政書士や司法書士の料金もカバーできる⇔弁護士の料金しかカバーできない(・・・交通事故被害に遭ったとき、あえて弁護士ではなく行政書士や司法書士に依頼する可能性も残しておきたい人以外は後者で十分では

・法律相談料だけカバー⇔弁護士に依頼する場合の料金もカバー(・・・後者が好ましい

   特に交通事故の人身被害を専門的に取り扱う私の経験では、☆の差異に自動車保険加入時に気づかず、「せっかく弁護士費用特約に入っていたのに、歩行中の被害では使えないなんて・・・」とがっかりされるケースがかなり目立ちます。

さて、今回は、弁護士費用など特約あることを根拠に、行政書士への相談報酬を自分の加入する損保会社に交通事故の被害者が請求したものの、その支払の大部分を拒絶されてしまった大阪地裁2013/11/22金商1432号22頁・大阪高裁2014/7/30自保ジ1929号159頁を紹介します。

この損保会社の自動車保険約款はこんな感じで定められていました。
『支払対象となる弁護士費用等とは、損害賠償に関する争訟について、被害者が予め損保会社の同意を得て支出した弁護士費用、司法書士報酬、もしくは行政書士報酬・・・をいい、法律相談の対価として支出した費用を含む。』

『法律相談には、弁護士が行う法律相談・司法書士が行う司書法3条1項5号7号にいう相談・行政書士が行う行書法1条の3第3号にいう相談(=行政書士が作成可能な官公署に提出する書類の作成についての相談)を指す。』

この裁判で原告になった被害者は行政書士に、依頼時の着手金3万円のほか、平成22年1月から後遺障害認定がおりた翌月の平成24年9月までの間、33カ月にわたり毎月2万円を支払い続けてきました(=3万円+2万円×33か月=69万円)。

なぜ分割払いになっているかというと、被害者と行政書士の間で 《後遺障害の認定が下りるまでの間、Eメールで回数無制限の交通事故相談を受けることができる。行書法1条の3第3号の相談報酬として月2万円の料金設定をする》 という相談報酬契約を交わしていたからです。

これに対し、損保会社は3万円+2万☓8か月=19万円だけ支払いに応じましたが、差額50万円の行政書士の相談報酬の支払を拒絶しました。
そこで、被害者本人が自分の加入する損保会社を本人訴訟の形で訴えたのがこの訴訟です(ほかにも、被害者は医療保険金や後遺障害保険金もあわせて請求しました)。

他方、損保会社は、この行政書士相談報酬は明らかに高額であり、弁護士法72条違反の報酬も含んでいる可能性が高いという理由で、支払義務を争いました。

大阪地裁の裁判官は「被害者が行政書士に毎月毎月どのような相談をしていたかを把握できる証拠が提出されていない。本件で33カ月もの長期にわたり継続して相談報酬を支払う必要があったことや、仮に相談があったとしてその内容が行書法1条の3第3号の範囲内のものか、確認できない。」と、被害者の請求を棄却しました。ちなみに、被害者は本人訴訟の形で控訴しています。

約款の中に棒線を書いていますが、交通事故被害者のために弁護士費用特約を利用する際には、受任する交通事故の専門家ならば、損保会社の担当から、料金算定方法について契約締結時にきちんと了解をとりつけておかないと、後日料金支払いをめぐって被害者を巻き込む契約損保会社との新たな紛争を生み出しかねません。
弁護士費用特約で料金を受け取る弁護士は、予めきちんと堂々と、損保会社の担当と料金に関して事前交渉し明確な了解をとりつけておくべきですね。


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