- センターオーバーの交通事故に遭い、修理費が200万円近くになるという見積が出ました。この車は新車で購入して4年目の国産大衆車です。
損保会社からは「レッドブックで65万円ですので、それ以上は支払えません。」と言われました。
でもインターネットの中古車販売業者のウェブサイトを複数見ると、同じ年式・同じくらいの走行距離・同じ車種のクルマを買うにも65万円では全然足りません。
ですから、損保会社の金額にはとても納得できません。レッドブックではなくネットに載っている金額をベースに解決すべきだと思うのですが?
- 交通事故の場合、被害に遭ったクルマの修理見積額がクルマの時価を上回る場合、経済的全損といって賠償額の限度は修理費ではなく時価にとどまります。
そのときのクルマの時価は《原則として、当該車両と同一の車種や型・年式・同程度の使用状態・同程度の走行距離などの自動車を、中古車市場によって取得するために必要な価額によって定めるべき》となっています(最高裁1974/4/15交民集7巻2号275頁)。
レッドブックとは何?
その中古車市場で取得するために必要な金額を知る資料として、賠償実務で用いられているのがレッドブックです。
レッドブックとは、オートガイド社が毎月発行するオートガイド自動車価格月報の業界通称です。
レッドブックには大量のクルマの価格が、年式や車種や型を区分して、下取価格・卸価格・小売価格の3つに分けて毎月掲載されています(そのほか新車価格も載っています)。 しかも、走行距離や車検残期間による修正要素も設定されています。
ただ、レッドブックに掲載されている小売価格ですら、一般にカーセンサーやグーといった中古車雑誌の掲載価格やウェブサイトに掲載されている金額に比べるとかなり低いことが珍しくなく、レッドブックの小売価格では現実に同等の中古車は買えないではないかという不満をよく耳にします。
中古車時価をめぐって争った裁判
ところが、中古車の時価をめぐって争った場合、損保会社との交渉のみならずたとえ裁判所に持ち込んだときであっても、被害車両と同一の車種・型・年式がレッドブックに掲載されている場合にはレッドブック記載額を基準にすることが一般的な傾向です(東京地裁2008/2/7交民集41巻1号16頁、名古屋地裁2006/11/7交民集39巻6号1547頁、東京地裁2006/6/14交民集39巻3号752頁、東京地裁2005/8/25交民集38巻4号1140頁ほか多数)。
裁判例がこういう傾向になっている大きな理由として考えられるのは次の2つでしょうか。
①レッドブックが損保会社常備の書物であり、裁判所から証拠として出させやすい
(逆にいえば、被害者が賢明にその他の証拠を集めたか否かという被害者の熱心さによって時価の認定額がぶれることを予防できる)。
②一民間会社の発行資料ではあるもののこれまでたくさんの交通事故紛争でこのレッドブックがクルマの時価を決める際に利用されてきたという積み重ねられた実績の差(これに対し、ウェブサイトの情報や中古車販売雑誌などに掲載された情報は販売希望価格でもあるし、統計学上の誤差を回避できるだけの母数なのかなどの懸念が存在し、あくまで売り物になるレベルの中古品しかアップされていないなど、レッドブックにドンピシャ掲載されていない際に補助的に利用されてきたにとどまる) 。
そう考えると、「レッドブックの掲載額がウェブサイトなどの金額と乖離しているので前者では現実に同等の中古車を取得できない」という一事を理由に、だからより高い後者の金額で解決すべしと主張することは、心情的には理解できるものの、法的解決の場面でその主張を採用してもらうことは、少なくとも現時点では思いのほか容易でないだろうと推測されます。
そして、この事態を逆転するには、《レッドブックの掲載額とウェブサイトなどの金額が乖離している場合、レッドブックは実勢価格ではないから採用すべきではない》という判決の獲得をいくつもいくつも積み重ねて初めて、その傾向に変化を及ぼすことが可能なのではないでしょうかと、私は考えるのです。
加害者が対物超過修理費用保障特約に加入しているケース
ちなみに、近年は、経済的全損の場合であっても、一定額の限度で時価に上乗せした修理費を賠償する(例:Qのケースですと、被害者の過失がゼロのため、時価65万円に特約上の上乗せ上限50万円を加えた115万円の限度で修理費を損保会社が支払う)対物超過修理費用保障特約に、加害者が加入していることもあります。
法律上の賠償範囲に上乗せして支払うことで事故処理を円満迅速に解決する目的でこのような特約を販売している損保会社もあります。調べてみてくださいね。
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