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Q:福岡県筑紫野市でクルマを運転中、信号機のない十字路交差点で、私からみて左側からやってきたクルマと出会い頭衝突しました。さいわい怪我はありませんでした。
お互いに注意が不十分だったということで、お互いの損保会社同士で50:50の割合で決着することになりました。私も修理代が40万円かかりましたので、過失相殺でとれない分は自分が加入している車両保険を利用して自腹がでないかたちで修理を済ませました。相手のクルマは非常に古いクルマで時価がごくわずかでしたので、対物賠償保険を利用するまでもありませんでした。
ところで、車両保険を利用したため、3等級ダウンして翌年からの保険料がアップしました。交通事故に遭遇しなければ車両保険を利用することもありませんでした。保険料割増分は過失相殺されたとしても5割賠償請求できませんか?
A:東京地判2022/7/6交民集55巻4号875頁でこの論点が問題になりましたが、裁判所は等級ダウンによる保険料の増額分は相当因果関係の範囲外にあるとして賠償請求できないとしました。その理由は次のとおりです。
「損害保険契約の等級は事故が起きれば常に下がるものではなく、事故の処理で等級ダウン要因となる保険を利用した場面でだけ下がるものである。
交通事故により損傷した車両を修理したり全損として買い替える場合、修理費用や買替費用を被害者が調達する際、被害者は
①車両保険契約を利用する
②車両保険は使わずに加害者から支払われる損害賠償金で賄う
③加害者から損害賠償金が支払われるのを待つことなく、(車両保険は使わずに)当面は自己負担で対応する、
この3つを被害者は自由に選択できる。
①を選択すると等級がダウンすることになり保険料増額を招くのに対し、②や③を選択すると等級はキープできるので保険料は変わらない。
どちらになるかは専ら被害者の選択に委ねられていることからすると、被害者が①を洗濯した場面で増額する保険料を加害者に負担させることが、損害の公平な分担の見地から相当であるとは言い難い。
また、車両保険利用の意向を後日撤回した場合には、等級ダウンは遡及的に解消され割増保険料も返金されるルールになっているので①だけで確定的に損害が生じたものともいえない。
そして、損害保険契約とは、交通事故により契約者自身がこうむった損害を填補又は契約者が他者に与えた損害を賠償するための自衛手段として締結するものであり、保険料とは自衛のためのコストとして契約者自身が負担すべきものであるから、保険を利用したことで等級ダウンして保険料が増額するリスクもまた契約者自身が負担すべき筋のものである」
交通事故により損害を被った場合に、保険料の値上がりを覚悟して保険を利用するか、保険料の値上がりを回避できる保険を利用しないことの、いずれを選択するかは被害者の意思に専ら委ねられるの現象なのだから、前者の場合に保険料が値上がりしたとしてもそれは被害者自ら損害を招いたのと同義だと割り切っているのでしょうが、そもそも交通事故にさえ遭わされなければその選択を求められる事態に遭遇することはなかったわけで、選択を求められた際に利用を選択することも相当程度ふつうに起きる現象ですから、これを相当因果関係がない行動だと言い切るのは割り切りが極端すぎる印象は持ちました。
とはいえ、損害保険契約はあくまで自衛道具であって自衛道具に要する費用が値上がりしたときに、たとえ交通事故のせいでコストが値上がりしたとしても、そのコストは元来他人に転嫁できる筋合いのものでないという言い分は、それなりに説得力があるというか、一種の価値判断であり、多くの裁判官はこの裁判レンと同じ価値判断に依拠するのではないかと感じました。