休業損害や逸失利益

赤字経営者の基礎収入にはどういう数値が入る?

  • 更新日:2018.3.5
  • 投稿日:2016.4.25

赤字経営者の基礎収入にはどういう数値が入る?

Question

交通事故で骨折し、1カ月の入院が見込まれます。
実は私は1人で小さな喫茶店を経営していまして、完全な赤字で所得証明書をとっても0円です。
入院中は喫茶店を閉めるほかないのですが、その間も家賃や機材のリース料を払わないといけません。0円申告の場合、休業損害はもらえないのでしょうか?

Answer

通常、自営業者の休業損害や逸失利益を算定する際の基礎収入は、故前年の確定申告控えや市役所の所得証明書を利用して設定します(年ごとに変動があるときは過去数年分を利用することもあります)。

ただ、自営業者の場合には赤字申告も珍しくありません(法人に関する統計ですが赤字申告は総申告数の75%にのぼるそうです)。

赤字申告という状態を数字だけ眺めれば、その事業を営んでいても売上が経費を下回る状態なわけですから、休業して売上が減ったとしても、同時に、営業していたら発生したであろう経費も減るわけで、赤字がさらに増えてマイナスがさらにマイナスになることはあっても、もともとプラスはなかったということになり、休業損害や逸失利益を計算するためのプラスの基礎収入なるものを観念できないようにも見えます。

しかし、売上から様々な経費を控除した結果が赤字ということであっても、赤字の労働自体が全く価値が無いと言い切るのは酷ともいえます。そのため、赤字申告であっても休業補償がゼロという考え方はとられていません。
  問題は、赤字申告の基礎収入をどのように算定するかということです。

1つめは、赤字申告の場合には1日あたり5700円という定額を上限にするという手法です。
自賠責保険が採用している簡便な方法ではあります。
といっても、その事業の1年間の売上が5700円×365日=208万0500円を下回る場合には、そもそもその労働に5700円の価値を付与する理屈自体が立たないことになります。

2つめは、同年齢の平均賃金を参考に、基礎収入がその平均賃金の何割には相当すると推定する手法です(大阪地裁2006/6/14交民集39巻3号764頁、東京地裁2003/7/1判タ1157号195頁、東京高裁1997/8/18交民集30巻4号941頁、東京地裁1975/8/25交民集8巻4号1170頁、名古屋地裁1992/7/29交民集25巻4号892頁)。
その数値も100%の場合もあれば70%の場合など様々です。
要は、確定申告書の内訳の固定費や変動費の度合を見て、同年齢の平均賃金と同水準の労働価値があるとみるか、落ちるとしてどの程度落ちるとみるかという裁判官の心証が影響しているようです。

1つめの手法は損保会社・被害者それぞれにとって予測可能性がつきやすいということで交渉で利用される頻度が高いのに対し、2つめの方法は数値の設定について損保会社と被害者の意見が一致してこそ妥結できることから裁判など第三者の判断を仰ぐ場面で利用される頻度が高いといえるでしょう。

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菅藤法律事務所 菅藤 浩三

この記事の著者・運営者:菅藤法律事務所 菅藤 浩三

福岡を拠点に、交通事故被害者の問題解決をサポートする現役の弁護士。弁護士歴約25年、2000件以上の交通事故案件を解決してきた豊富な実績を持つ。東京大学卒業後、合格率2.69%の司法試験に合格。整理回収機構の顧問弁護士や、日本弁護士連合会・福岡県弁護士会の委員を歴任するなど、交通事故分野における高い専門性と信頼性が評価されている。

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弁護士歴(抜粋)

  • 1992年

    司法試験合格

  • 1995年

    福岡県弁護士会に弁護士登録

  • 2004年

    整理回収機構 九州地区顧問 就任

  • 2006年

    菅藤法律事務所を設立

公的役職歴(抜粋)

  • 2010年~

    日本弁護士連合会「市民のための法教育委員会」副委員長

  • 2010年~2013年

    福岡県弁護士会「法教育委員会」委員長

  • 2014年~

    福岡県弁護士会「ホームページ運営委員会」委員長

  • 2015年~

    福岡県弁護士会「交通事故委員会」委員

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