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最高判2025/7/4自保ジ2191号1頁は、被害者に交通事故前から存在していた被害者の疾患があり、その疾患があることで損害賠償全体を決定する際の素因減額が適用される事案において、被害者に人身傷害保険金を支払った人傷社が加害者に対し取得する損害賠償請求権の代位取得の範囲について、人身傷害保険金では素因減額される部分は補填されないと明言しました。
実際に人身傷害保険のほとんどの約款には『傷害を被った時に既に存在していた身体の障害又は疾病の影響により、上記傷害が重大となった場合には、訴外保険会社は、その影響がなかったときに相当する金額を支払う』という限定支払条項が付されているので、その結論はほとんどの弁護士が当然だろうと受け止めているのですが、なぜ過失相殺される部分は補填されるのに素因減額の部分は補填されないのかという、素朴な疑問に対する回答が補足意見でとりあげられているので紹介しました。
人身傷害保険金は上記事故により被保険者(=被害者)が身体に傷害を被ることによって被保険者に生じた損害の填補を目的として支払われるものであることから、限定支払条項が適用される場合には、人傷社は、その影響の度合いに応じて保険金の一部を減額して支払うものとすることにより、既存の身体の障害又は疾病による影響に係る減額の部分を保険による損害填補の対象から除外する趣旨を明らかにしたものと解される。
そうすると、上記人身傷害条項に基づき支払われる人身傷害保険金は、被保険者の既存の身体の障害又は疾病による影響に係る部分を除いた損害を填補する趣旨・目的の下で支払われるものであるということができる。
したがって、上記人身傷害条項の被保険者である被害者に対する加害行為と加害行為前から存在していた被害者の疾患とが共に原因となって損害が発生した事案について、裁判所が、損害賠償の額を定めるに当たり、民法722条2項の過失相殺の規定を類推適用して、上記疾患をしんしゃくし、その額を減額する場合において、上記疾患が本件限定支払条項にいう既存の身体の障害又は疾病に当たるときは、被害者に支払われた人身傷害保険金は、上記疾患による影響に係る部分を除いた損害を填補するものと解すべきである。
以上によれば、上記の場合において、上記疾患が限定支払条項にいう既存の身体の障害又は疾病に当たるときは、被害者に対して人身傷害保険金を支払った人傷社は、支払った人身傷害保険金の額と上記の減額をした後の損害額のうちいずれか少ない額を限度として被害者の加害者に対する損害賠償請求権を代位取得するに過ぎないと解するのが相当である。このことは、人傷社が人身傷害保険金の支払に際し、限定支払条項に基づく減額をしたか否かによって左右されるものではない。
そして補足意見はこう言及しているのです。
「上告人の考えは、いわゆる素因減額は、損害の公平な分担を図るという趣旨に照らし、民法722条2項の過失相殺の規定の類推適用を法的根拠とするものであるから、過失相殺と同様に扱うべきであり、本件で問題となっている素因減額がされる場合に人身傷害保険金を支払った保険会社が被害者の加害者に対する損害賠償請求権を代位取得する範囲についても、過失相殺がされる場合(最高判平成24年2月20日参照)と同様に解すべきであるとの考え方に基づくものと解される。
しかし、素因減額は、基本的には、被害者に対する加害行為と加害行為前から存在していた被害者の疾患とが共に原因となった場合における損害額の発生そのものに係る局面の問題であり、発生した損害額について公平な分担のための調整を図る過失相殺の問題とは局面が異なるのであるから、所論のいうように、素因減額がされる場合を過失相殺がされる場合と同様に解すべきであるということはできない。」