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後遺障害のために余儀なくされた施設入所費用

  • 更新日:2025.1.21
  • 投稿日:2025.1.21

  交通事故に遭い12級左肩関節機能障害の後遺障害を残した事故当時83歳女性一人暮らしが、病院退院後に介護付き老人施設への入所暮らしを余儀なくされたことによる介護施設でかかる費用の賠償期間を入所から4年間に限定し、その際の個別費用を認定した名古屋地判2018/7/26自保ジ2034号105頁を紹介します。

 被害者は一人暮らしで、交通事故前から要支援1の介護認定を受けていましたが、右手で杖をつきながら外出することもできました。交通事故により左上腕骨近位端骨折・左脛骨近位骨骨折の傷害を負い4カ月半入院したのち、自賠責で12級6号左肩関節機能障害・12級13号左膝関節痛の併合11級認定をされました。

 退院後も被害者は自宅での一人暮らしがままならなくなり、介護付き老人施設に入所暮らしを開始することになりました。病院の退院時に、病院では「交通事故による骨折と入院生活の結果、怪我した左上下肢のみならず、右下肢の筋力も著しく低下してしまい、リハビリを実施してもなお、十分に安定した歩行ができるまでには回復至らず、退院後もひとり暮らしの自宅への帰宅は困難であり、施設入所が相当」と判断されたからです。

 この状況で、裁判所は、介護施設でかかる費用の賠償期間を、被害者が事故当時に83歳で一人暮らしであったこと、すでに要支援1の認定を受け歩行時には右手で杖をつきながら移動していたこと、内服によるコントロールができる程度ではあったが自己免疫性肝炎と糖尿病と骨粗しょう症にり患していたこと、これらに照らせば、仮に交通事故に遭遇しなくても近い将来に施設入所を開始する蓋然性があったとして、賠償期間を4年間に限り認定しました。
 それから、裁判所は、その4年間の介護施設費用の月額単価は、入所時に必要な費用に限らず入所後も継続的に必要となる費用を対象にすると宣言した上で、施設費用のうち食費など自宅で生活していても必要な費用は賠償対象から控除すべきとし、必要かつ相当な賠償対象の施設費は月額15万円であると認定しました。

  着目すべき1点めは、後遺障害併合11級であっても、退院後の施設生活費用を賠償対象とした点です。一般論ですが、関節可動域や神経症状にとどまる併合11級が認定された場合の補償項目は後遺症慰謝料そして逸失利益です。逸失利益とは後遺障害を被ったことによる症状固定日以降の減収に対する補償です、無職の高齢者の場合には逸失利益は発生しないのが一般です。この事案でも逸失利益は発生していないのですが、交通事故に遭遇したことを原因に退院後暮らしていく中で余分に介護施設で入所生活していく費用が継続的にかかる事態が生じた場面では、典型的な後遺障害の損害項目に該当していずとも介護施設で入所生活していく費用は賠償対象とされると宣言しました、結論的にはごく当たり前のように感じられますが、寝たきりなどわかりやすい事例以外で典型的な補償項目に含まれていない費用を補償対象に含めると明示した点が注目されます。

  注目すべき2点めは、退院後の施設生活費用の賠償対象期間を4年間と限定した点です。被害者は、症状固定時の年齢からは平均余命9年間であり、加齢に伴い将来介護サービスを受けていた可能性もあるので、控えめにそのうちの3分の2にあたる6年間の分を賠償請求しました。それに対して裁判官は交通事故に起因する施設生活費用の賠償対象期間を4年間と認定しました。平均余命9年間と6年間と4年間、その違いは専ら裁判官の心証で決定されるものとなるでしょうが、事例判断として平均余命の2分の1未満となされたことは参考になります。

  注目すべき3点めは、賠償される施設生活費用の単価を実際に要する金額から大きく限定していることです。事例判決ですが、被害者が交通事故前は自己所有の自宅で独居していたことから、家賃相当額を控除する理由はないとしたものの、運営費+介護保険内の介護保険費+家賃相当額6万5000円に有料サービスを見込で加味し1か月あたり15万円としました。これも事例判断ではありますが、この被害者の場合は実際にかかっている1か月あたりの施設生活費用が30万円を超えている場合であってもその半分の単価しか賠償対象として認容されなかったことは事例判断として参考になります。

 なお、この事案の判断はあらゆる同種の事案で同じように当てはまるわけではないですので、その点は検討にあたってご留意ください。

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