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Q:福岡市中央区に住んでいます、新車で銀行でオートローンを組んで借りたお金で4カ月前に買ったばかりのトヨタプリウスが、相手のよそ見運転で追突されました。
修理費は100万円ほどかかると見込まれたのですが、事故車にはもう乗りたくありません。新しく買い替えようと下取りに出そうとしたら、事故車なのでたとえ修理が済んでいても事故に遭っていないクルマに比べて下取りは安くなると言われました。
相手損保に格落ち損害つまり評価損を下取りが安くなる分だけ賠償してほしいと申し出たのですが、国産車では賠償に応じられないと言われました。相手損保の言い分はおかしくないですか?
A:まず事故車の格落ち損害(評価損)について説明します。
事故にあって車が破損した場合、被害者は加害者に対して修理費を請求することができます。
ところが、修理しても次に説明するおおむね2つの理由により、修理後の車の時価査定が、事故に遭わなかった場合よりも下がってしまうことがあります。
このような「事故直前の車の価格と修理後の車の価格との差額」を格落ち損害または評価損といいます。
この評価損は、損保会社がなかなか認めてくれないため、事故の被害者がよく不満を感じる問題の一つです。
◆技術上の評価損と取引上の評価損とは?
評価損を生む原因としては「技術上の評価損」と「取引上の評価損」の2種類があります。
ちなみに、「格落ち損害」というときは、この2種類の評価損のうち、「取引上の評価損」を指すことが通常です。「技術上の評価損」が現れる場合はそもそも物理的修理不能に該当すると区分されるべきともいえますので。
◇技術上の評価損…修理しても物理的な欠陥が残った場合
技術上の評価損というのは、「修理によっても技術上の限界等から機能や外観に回復できない欠陥が存在する場合に発生する損害」のことをいいます。
具体的には、修理後に通常の走行には影響はないが高速走行すると無視できない不具合音がでるようになった場合などです。
技術上の評価損については、修理しても完全に車が元通りになっていない以上、評価損として賠償の対象となります。
ただし、現在では、板金や塗装も含めた修理技術が向上していることため、明らかに交通事故に起因して除去できない技術上の評価損が生じたといえるケースはあまりありません。
仮に被害者のほうでこれは技術上の回復できなかった欠陥だと指摘したくても、修理工場の人間がかくかくしかじかの理由により技術的に回復できないと理由つきで証拠となる形で説明できなければ、交通事故に起因する技術上の評価損に該当するものとして、欠陥自体の証明が難しいので、技術上の評価損の請求を断念せざるを得ないことになります。
◇取引上の評価損…修理履歴がつくことにより下取り価格が下がる場合
取引上の評価損(格落ち損害)というのは、「修理は特に目につく支障なく完了するけれども、事故歴があるという理由で当該車両の価値が下落する場合に発生する損害」のことをいいます。具体的には、事故車扱いのため下取り価格が下がってしまった場合です。
実際に、事故車になってしまうのに修理費だけの賠償では納得できないと不満が生じてしまう場面というのは、この格落ち損害(取引上の評価損)を賠償してもらえないことが原因であることがほとんどです。
◆格落ち損害(評価損)の賠償は限定して認められる。
この格落ち損害は、技術上の評価損とは違い、たとえ裁判に持ち込んでも認定してもらえるものではありません。認定してもらうには下記の2つの格落ち損害(評価損)の場面に限定される傾向にあります。
これは、骨頭品、絵画、宝石、お店にとっての商品などとは違い、自動車は基本的には利用することに価値があり、それを売却して金銭に交換する価値は二次的なものであるという考え方が背景にあるように思います。
◆格落ち損害が認められる場合の典型例とは?
◇高級車は認められやすい
1つめのハードルは、事故当時の車の価格が高いほど、格落ち損害は認められやすい傾向にあります。
これは、例えば高級外車は資産形成のために購入する人もいますし、高額で売却できる車両ほど、車を利用する価値だけでなく、車を金銭に交換する価値も重要であると考えられるためです。
①高級外車であればあるほど、②新車に近ければ近いほど、③走行距離が少なければ少ないほど、一般的に事故当時の車の価値は高くなりますから、格落ち損害も認められる可能性がでてきます。
ちなみに、格落ち損害が認められるかどうかの登録後の期間と走行距離の一般的な目安は、次の通りです。
外国高級車または国産高級車種 5年未満かつ6万㎞未満
他方、国産大衆車や軽自動車といった、比較的低価格帯の車両は、たとえ3年未満かつ4万km未満であっても、格落ち損害をみとめてもらえないことが珍しくありません。むろん認めている裁判例も複数ありますが、この点は交通事故に強い弁護士かどうかで結果に差がでてもおかしくはないです。
◇修理費が高いこと 内部骨格部位への損傷は認められやすい
2つめのハードルは、交換価値が下がったことを、修理見積書により具体的に証明できることです。
事故直前にたまたま車を査定していた場合には、事故後の査定と比較するという方法も考えられますが、あまりこのようなケースはないでしょう。また、任意団体の査定協会の査定書を有料で入手できますが、裁判所はその査定書にはほとんど重きを置いていないのが実情です。
そのため、実際には事故による損傷が自動車の内部骨格部位に及んでおり、中古車業者に事故歴・修復歴表示義務が生じることや、修理費の金額が高く大規模な修理が実施されたことなどから、下取り価格(交換価値)の低下が生じることを証明することになります。
裏返せば、ミラーやバンパーのみの修理で修理費もそれほど高額でない場合は、交換価値の低下が認められず格落ち損害は認められないでしょう、たとえ高級外車であっても。
◆格落ち損害の相場はどんな感じ? 修理費の1割~3割の幅
それでは、格落ち損害が認められるハードルをクリアしたとして、その金額はどのように計算するのでしょうか?また相場はあるのでしょうか?
事故前の車両の査定額と事故後の車両の査定額の差を格落ち損として認容することもありますが、両者の説得的証拠を入手できるのはまれで、多くの裁判例は、格落ち損害について、修理費用の何割という形で修理費から割合的に認定する計算方法をとっています。
そして、裁判例が認める格落ち損害の相場は、おおむね修理費の1割から3割程度となっています。また、高級車の場合や新車購入直後の場合などは比較的高めの割合の格落ち損害が認められることがあります。
◆損保会社は格落ち損害を非常に出し渋る傾向にある
損保会社が、示談交渉において、格落ち損害を自発的に提示することはほとんどありませんし、いざ示談交渉しても裁判例の傾向に比べて出し渋る傾向が強いです。
そのため、格落ち損害について請求する場面では、裁判をせざるを得なくなることが多いです。そして、裁判で格落ち損害が認められるかどうかは、過去の多数の裁判例と比較するなどして、専門的な判断が必要になります。ですので、格落ち損害について請求したい方は、交通事故に強い弁護士に依頼することが大事でしょう。
◆修理しない場合の格落ち損害と経済的全損
ちなみに、Qのように事故車にはもう乗りたくないからと修理しないで下取りに出す場面で、格落ち損害を請求することはできるのでしょうか?
はっきりできるとかできないと明言した裁判例はありませんが、理論的にいえば、修理をしないでも格落ち損害は発生します、修理しないでも修理費を請求できるのと同じです。
しかし、実際には事故車両を修理しないケースというのは、①車の損傷が軽微で修理しないでも安全に走行できる場合か、②経済的全損(またはそれに近い状態)のため新たに買い替える場合が多いと思います。
①の車の損傷が軽微の場合には、車の内部骨格部位に損傷が生じていることはなく修理費も低額となり、格落ち損害が認められないことが多いでしょう。
②の経済的全損の場合には、格落ち損害も、修理費と併せて時価額の範囲で賠償を受けることができるに過ぎない以上、修理費のみで時価額を超えているのであれば、追加で格落ち損害を請求することはできないことになります。
例えば、車両時価額90万円、修理費100万円、格落ち損害が修理費の2割の20万円だとしても、修理費のみで時価額を超えている以上、格落ち損害は請求できないことになります。