退職金の差額請求は可能か?可能な場合の計算方法は?
退職金の差額請求は可能か?可能な場合の計算方法は?

娘は死亡時に33万6300円の俸給を受け取っていましたが、福岡市役所では通常1年に1度自動的に昇給していたので、現在の昇給基準を機械的にあてはめても60歳定年時には46万3650円には俸給があがっていたはずです。
他方、娘が亡くなった際に退職手当が396万1000円支給されたのですが、娘が60歳定年まで勤めあげていたならば、はるかに多くの退職金を受け取っていたはずです。退職金の差額請求をしたいのですが?
東京地判2003/11/26自保ジ1538号7頁の事例を参考にしています。なお、この事例では退職金以外の通常の逸失利益の算定にあたり、60歳定年の前後で基準額を区分して算定しているのですが、その論点はまた別項でとりあげます。
この論点に関しては交通事故赤本2012年下巻に、川﨑直也裁判官の講演録があります。
まず、死亡事故において退職金差額を損害として請求する場合には、交通事故と退職との間に因果関係があることに加え、被害者が定年時まで勤務を継続していた蓋然性、及び、定年時に死亡当時の支払基準に則した退職金が支給された蓋然性の存在が認定される必要があります。
一般論として、最高判1968/8/27判タ226号78頁は、退職金差額請求は可能と肯定していますけれども、実際には、定年の到来が交通事故よりも遠い将来にあることが珍しくないので、それらの蓋然性の有無が争われることがあります。
さらに、これら蓋然性が認められる場合であっても、定年まで勤務すれば支給されたであろう計算上の退職金と、実際に支給された退職金の差額がそのまま認められるものでなく、定年まで勤務すれば支給されたであろう計算上の退職金を定年までの期間の分の中間利息を控除して割り引きし、その割り引かれた額と実際に支給された退職金との差額の範囲で請求が可能とされています。
東京地判2008/11/27自保ジ1777号2頁では、永住権ある外資系金融機関で試用期間中に死亡した32歳ネパール人バイスプレジデントについて、過去6年間に2度転職していることから、被害者がその企業から退職金を受け取る蓋然性がないと退職金の請求自体を否定しました。
東京地判2003/2/3自保ジ1503号10頁では、48歳上場企業社員ながら、死亡時に支給された退職金額が、60歳定年時に支給されるであろう計算上の退職金を現時点まで中間利息控除して割り引いた額を上回っているとして、退職金差額請求はできないとしました。
なおQのケースの裁判例は次のような計算を行い、退職金差額を算出しました。
計算上の退職金:46万3650円×62・7=2907万0855円
28年分(定年60歳―死亡時32歳)の中間利息控除値:0・25509364(年5%ライプニッツ係数)
∴賠償請求できる退職金差額=2907万0855円×0・25509364―現実の支給額396万1000円≒345万4790円