菅藤浩三ブログ

無保険車傷害保険と人身傷害保険は同時に使えるの?

  • 更新日:2016.6.1
  • 投稿日:2016.4.25

無保険車傷害保険と人身傷害保険は同時に使えるの?

無保険車傷害保険と人身傷害保険は何か違うの?」をまずお読みください。
    人身傷害保険のメリットが、相手方Zがちゃんと任意保険に加入していたならば、被保険者Xに過失がある場合でも、自己の加入する損保会社Yの人身傷害保険金と、相手方Zの加入する任意保険からの回収を組み合わせることにより、自己に全く過失がなかったのと同じ金額を回収することができる点にあることは、そこで説明したとおりです。

   では仮に相手方Zが無保険車だった場面で、無保険車傷害保険にも人身傷害保険にも両方とも加入している、重篤な後遺障害を被った被保険者Xが現れたとします。
    例えば被保険者Xの総損害額を1000万円、人身傷害保険金を600万円、被保険者Xの過失を30%、相手方Zは無保険車だった例を想定しましょう。

     もし人身傷害保険しか利用できないならば被保険者Xが損保会社Yから確実に取得できる人身傷害保険金は600万円ですし、もし無保険車傷害保険しか利用できないならば被保険者Xが損保会社Yから確実に取得できる無保険車傷害保険金は700万円(=1000万円×相手方Zの過失70%)にとどまります。

そこで被保険者Xは考えました。
   「人身傷害保険って自分の過失部分を埋めてくれる保険だよね。
   すると総損害1000万円のうち、過失相殺で相手方Zから回収できない300万円=1000万円×自己の過失30%の部分に先行回収した人身傷害保険金600万円を充当してさ、残り400万円を相手方Zは無保険ということで無保険車傷害保険で回収したら、結局、1000万円損保会社Yから回収できるんじゃねーの?俺ってアッタマいー!」
    ひらめいた被保険者Xは、損保会社Y相手に、先行して人身傷害保険金で回収した部分は過失相殺で相手方Zから回収できない部分に充当されるべきで、総損害額と支払われた人身傷害保険金との差額をまるまる無保険車傷害保険金で支払うべきだと、設例のケースで言えば400万円の支払を求めて損保会社Yを提訴したのです(大阪地裁2009/2/16判タ1332号103頁)。

     これに対し、損保会社Yはこう反論しました。
   「いやいや。当社の約款だとたしかに、無保険車傷害保険は、人身傷害保険で支払われる金額が無保険車傷害保険金で支払われる金額を下回る場合に発動されると書かれているんだけれども、その場合、既に人身傷害保険金を支払っていた場合には無保険車傷害保険金で支払う枠から差し引くと定めているんだよ。」
   そのケースで言えば、無保険車傷害の支払枠が700万円、人身傷害保険金が600万円なんだから差額100万円しか支払えませんよと。

    大阪地裁2009/2/16は、約款では損保会社Yの言うとおりに定められているんだから、被保険者Xの主張は間違いだよと斥け、損保会社Yの主張を採用しました。実際のところ、無保険車傷害保険条項の中には損保会社Yが主張するような約款が設けられていることがほとんどだと思われます。
    うまい話はそうそうないようです


菅藤法律事務所 菅藤 浩三

この記事の著者・運営者:菅藤法律事務所 菅藤 浩三

福岡を拠点に、交通事故被害者の問題解決をサポートする現役の弁護士。弁護士歴約25年、2000件以上の交通事故案件を解決してきた豊富な実績を持つ。東京大学卒業後、合格率2.69%の司法試験に合格。整理回収機構の顧問弁護士や、日本弁護士連合会・福岡県弁護士会の委員を歴任するなど、交通事故分野における高い専門性と信頼性が評価されている。

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弁護士歴(抜粋)

  • 1992年

    司法試験合格

  • 1995年

    福岡県弁護士会に弁護士登録

  • 2004年

    整理回収機構 九州地区顧問 就任

  • 2006年

    菅藤法律事務所を設立

公的役職歴(抜粋)

  • 2010年~

    日本弁護士連合会「市民のための法教育委員会」副委員長

  • 2010年~2013年

    福岡県弁護士会「法教育委員会」委員長

  • 2014年~

    福岡県弁護士会「ホームページ運営委員会」委員長

  • 2015年~

    福岡県弁護士会「交通事故委員会」委員

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