物損

交通事故のクルマの修理で全塗装を求められる?

  • 更新日:2023.8.10
  • 投稿日:2016.4.25

右折待ちではみだし停止中に対向車両がぶつかってきたときの過失割合は?

福岡県八女市で相手が100%悪い交通事故に遭いました。
クルマにこぶしくらいの大きさの、目立つかすり傷をつけられました。かすり傷の部分だけ塗装すると、ほかの部分は色焼けしているので、色むらが起きてしまい、とても気になります。
部分塗装でなく全塗装してほしいのですが?
自動車の外装にキズがつくと、そのキズを補修する際に、修理箇所を塗装する必要が生じます。
最近はコンピューターを使って塗料を調合するなど、塗装技術の進歩は目覚ましく、パッと見では修理箇所がどこだったのかほとんどわからない程度にまでは塗装することが可能になっているそうですが、やはりどうしても完全にほかの部分と見分けがつかない、元通りの状態にまでは戻せないようです。
修理箇所の部分塗装にとどまらず、ボディ全体を塗り直してほしいと全塗装を希望するのはクルマのユーザーにとってごく自然な感覚なのでしょうが、果たして、クルマの一部分を修理する場合、加害者が加入している保険を利用して、全塗装を求めることはできるのでしょうか。

修理で全塗装を求められない理由は?

裁判例はごく例外的な場面を除き、被害者が請求できるのは修理箇所の部分塗装にとどまり、全塗装の要求までは認められないとしています。 その理由として、ⅰ~ⅲの理由が挙げられています(福岡地裁1982/1/29交民集15巻1号120頁)。
ⅰクルマの塗装には防サビ及び美観の保持という2つの作用が期待されるところ、部分塗装も全塗装も、多少の光沢や耐久性の程度に差があるとはいえ、両者とも同じ2つの作用を持っている。

ⅱ今日の塗装技術の進歩に照らせば部分塗装であっても一見して再塗装したことが明白でクルマの美観を害するとまではいえない(=全塗装でなければクルマの美観が甚だしく損なわれるとまでは一般に評価されない)。

ⅲ全塗装の場合には破損部分の大小に関わらず車体全部を再塗装することになるのでその費用も高額にのぼることが多い。

全塗装が例外的に認められる場合は?

では全塗装がごく例外的に認められる場合はどのような場合か。札幌地裁室蘭支部1976/11/26交民集9巻6号1591頁は、①~③のような場合であれば許容してもよいのではないかと説示しています。
①特殊な塗装技術を施してあるため、破損部分のみの部分塗装では、他の部分との相違が一見明白となって、美観が明らかに害される場合。

②自動車自体が高価なもので、しかもその価値の大部分が外装にかかっている場合。

③損傷個所の部位が広いため再塗装の範囲も広くなり、全塗装する場合と比較して費用に大きな差異を生じない場合。

 例えば、交通事故のためバッテリー液がポルシェの広範囲な箇所に飛散したものの、どの範囲でバッテリー液が飛散したのか明確でない場面で、塗装と下地の腐食を防ぐために全塗装も合理的と判断したケース(東京地裁1989/7/11交民集22巻4号825頁、いわば③でしょうか)、

 登録後3年めのポルシェが車体全部を中心に大きな損傷を受けており、部分塗装の方法によっては損傷していない箇所との相違をわからないように復元することは技術的に困難であるため全塗装も合理的と判断したケース(岡山地裁津山支部1995/4/25交民集28巻2号671頁)、

 キャンディ・フレークという特殊な塗装がなされているクルマについて、雑誌などで紹介されていることからも趣味嗜好の対象としてある程度の一般性があり、また、自動車に対して所有者がいかなる加工を施しても法令違反でない限りはその加工を法的に非難できないとして、全塗装の必要があると判断したケース(東京地裁2013/3/6自保ジ1899号175頁、①にあたります)、があるようです。

 ただし、キャンディフレークについて部分塗装で足りると判断したケース(東京高裁2014/1/29自保ジ1913号148頁)も存在します。

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