高次脳機能障害・遷延性意識障害

遷延性意識障害の交通事故被害者の余命数値は平均余命と一致する?

  • 更新日:2016.6.1
  • 投稿日:2016.4.25

遷延性意識障害の交通事故被害者の余命数値は平均余命と一致する?

Question

福岡県春日市に住んでいた年金暮らしの65歳の父が、横断歩道の自転車横断帯を自転車で移動中、脇見運転のクルマにひかれる交通事故に遭いました。
打ち所が悪く、頭から地面に強くたたきつけられて、一命を取り留めたものの植物状態となり、病院に1年間入院した後、事故から1年後の66歳のときに症状固定となりました。現在は病院を退院して、ヘルパーの全面的協力を受けながら母が自宅で父を介護しています。
先日、相手損保から賠償提示を受けましたが、介護費用が10年分しか計算されていませんでした。 なぜ10年なのかと相手損保の担当者に問い詰めると、遷延性意識障害の被害者が交通事故から10年以内に亡くなる率は80%を超えているという統計があるからという説明でした。
その説明は本当なのでしょうか。

Answer

66歳男性の平均余命は平成25年簡易生命表で18・30年です。
しかし、交通事故で植物状態になった人の死亡率は、5年未満で66・3%、5年以上10年未満で21・8%、10年以上15年未満で8・3%、15年以上20年未満で3・0%、25年以上が0・4%という、自動車事故対策センター作成の統計が存在するのも事実です(東京高裁1994/5/30交民集27巻6号1562頁)。
ですから、相手損保は上記東京高裁1994/5/30に依拠して、介護費用の対象期間を平均余命よりも大幅に短く設定した数値を主張しているのでしょう。

しかし、裁判例の圧倒的多数は、上記の統計が存在しているにせよ、平均余命までの介護費用を賠償対象として認定しています(例えば、東京地裁1998/3/19判タ969号226頁)。
この東京地裁1998/3/19は、自動車事故対策センター作成の統計資料に対し、この資料のサンプル数はきわめて少ない、遷延性意識障害の患者をめぐる介助や医療の水準は日進月歩であり現在もなお通用する資料とは確証できないと、その数値に依拠して心証を形成すべきでないと説示しています。
実際、平均余命よりもさらに短く将来介護期間を認定した場合、もし医療の進歩で交通事故被害者がその認定された期間を越えて存命したときは、その期間以降にかかる介護費用は被害者側で負担することを余儀なくされ、いわば延命を被害者側が歓迎しなくなるという非倫理的な状態が生まれてしまいます
また、裁判官自身が「この被害者は平均余命よりも短い〇×年しか生きられない。だから、介護費用もその〇×年の限度しか要らない」と、占い師のように判決で宣言することに、強い心理的抵抗があるという事情もあるようです。

ですから、交通事故の被害者側としては、多くの裁判例が平均余命までの生存可能性あることを前提に認定していると反論しても問題ないと思料します。

ご家族が交通事故のため遷延性意識障害に陥られてお困りでしたら、その悩み苦しみを少しでも和らげて受けた被害の経済的回復を図るため、豊富な解決実績を誇る、福岡の弁護士、菅藤浩三(かんとうこうぞう)に思い切ってご相談ご依頼ください。

 

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菅藤法律事務所 菅藤 浩三

この記事の著者・運営者:菅藤法律事務所 菅藤 浩三

福岡を拠点に、交通事故被害者の問題解決をサポートする現役の弁護士。弁護士歴約25年、2000件以上の交通事故案件を解決してきた豊富な実績を持つ。東京大学卒業後、合格率2.69%の司法試験に合格。整理回収機構の顧問弁護士や、日本弁護士連合会・福岡県弁護士会の委員を歴任するなど、交通事故分野における高い専門性と信頼性が評価されている。

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弁護士歴(抜粋)

  • 1992年

    司法試験合格

  • 1995年

    福岡県弁護士会に弁護士登録

  • 2004年

    整理回収機構 九州地区顧問 就任

  • 2006年

    菅藤法律事務所を設立

公的役職歴(抜粋)

  • 2010年~

    日本弁護士連合会「市民のための法教育委員会」副委員長

  • 2010年~2013年

    福岡県弁護士会「法教育委員会」委員長

  • 2014年~

    福岡県弁護士会「ホームページ運営委員会」委員長

  • 2015年~

    福岡県弁護士会「交通事故委員会」委員

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