責任主体

11歳が蹴ったボールが校庭外に飛び出した交通事故、両親の責任は?

  • 更新日:2023.6.13
  • 投稿日:2016.4.25

11歳が蹴ったボールが校庭外に飛び出した交通事故、両親の責任は?

Question 福岡県田川郡糸田町に住んでいます。私が小学校の隣の道路をバイクで走行中、校庭から道路にサッカーボールが飛び出してきました。 ビックリしてバイクのブレーキをかけたところバイクが滑り出し、転んで手首を骨折してしまい、会社を休む羽目になり、治療費もかかりましたし手首に後遺症も残りました。
11歳の子供が道路近くの校庭内のゴールに向かってフリーキックの練習をしていたとき、ミスキックで校庭の外の道路までサッカーボールが飛び出してしまったということです。
子供に悪気が無いのは分かります。でも私もこの交通事故で多大な損害を受けています。子供の親に賠償してもらえないのでしょうか?
Answer

未成年者の責任能力の有無

実際に愛媛県今治市の公立小学校で起きた交通事故をモデルにしています、ニュース報道もされました。なお、愛媛県今治市は補助参加しています。
まず、11歳の子供自身は責任能力を欠いている存在として賠償請求される客体とは一般になりません(民法712条)。法律用語で責任無能力者と言います。
   責任無能力者を民法が賠償客体から除外した理由は、物事の良し悪しをわきまえる能力を欠く人格発達の未発達な

未成年者の責任能力の有無

者が行った行動については、その者の資力に関わらず一律に賠償責任の客体から免除する方が、社会としては好ましいという政策的配慮のゆえと言われています。未成年者の責任能力の有無は一般に12歳前後が分岐点とされており、小学生は責任無能力者と扱われることが多いようです。

誰が被害者に対して責任をとるのか

    ではその場合、誰が被害者に対して責任をとる客体になるかというと、責任無能力者を法律上監督しなければならない義務者が、責任無能力者に代わり補充的に賠償責任を負う原則が採用されています(民法714条1項本文)。
    未成年者の場合、子供を監護し教育する権利義務を持つ親権者が、監督義務者にあたります(民法820条)。
    そして、責任無能力者の監督義務者が交通事故の被害者に対する賠償責任を免れるためには、監督義務を怠らなかったこと、もしくは、監督義務をきちんと履行していても損害発生を回避できなかった場合に限定されています(民法714条1項但書)。
   本件で言えば、この11歳の子供の親が子供に対する監督義務を怠らなかったといえるかどうかが、被害者が子供の親に治療費などを賠償請求できるかどうかの結論の分かれ目となるのです

実際に起きた交通事故の事例 〜 一審判決 〜

    実際に愛媛県今治市で起きた交通事故では、一審の大阪地裁2011/6/27自保ジ1856号168頁、二審の大阪高裁2012/6/7判時2158号51頁の両方とも、11歳の子供の親に賠償義務アリと認定しました。
    ただ一審判決は、「フリーキックの練習をしていた場所は、サッカーボールの蹴りかた次第でサッカーボールが校庭内から校庭に接する道路まで飛び出す危険があることは、11歳の子供にも十分予見可能であって、そのような場

実際に起きた交通事故の事例

所でサッカーボールを蹴るようなことをしてはいけなかったのに、漫然と蹴ってしまった結果、サッカーボールが校庭外に飛び出したのだから、11歳の子供には過失がある。しかし、11歳の子供は責任無能力者だから、両親が監督義務者として賠償責任を負う」という説示で、民法714条1項但書に触れない理屈付けそのものが不十分な判決でした。
    控訴審において、子供の両親は次のα~γの反論を展開しました。
α:11歳の子供がサッカーボールを蹴った行為はそもそも違法ではない。
    責任無能力者である小学2年生の子供が鬼ごっこの最中に誤っておんぶしかけた子供を転倒させた件で、鬼ごっこの性質上そのような遊戯がありうることは条理上も是認されるもので違法性が欠けており、被害者もその過程で被った怪我は甘受すべきとされている(最高裁1962/2/27判タ129号47頁)。
    11歳の子供のした行為はサッカーボールを道路のそばにあるゴールポストに向かって校庭内からフリーキックで蹴っただけであり、まさしく社会的に許容される行為をしただけであるから、違法性はない。
β:両親は11歳の子供に対し、一般的な家庭と同じく、危険な遊びをしないよう注意しており、監護教育義務に怠りはなかった。
    未成年者にも行動の自由に任せておくべき領域があるところ、特に具体的な危険が予測されない行動について、いちいち親が監視しておくことはできない。
    具体的には、校庭にゴールポストがあり、サッカーボールをゴールに向かって蹴ることは学校で禁止されていなかったのだから、両親に子供が校庭でゴールに向かってサッカーボールを蹴らぬよう監護教育すべき義務はない。
γ:被害者は小学校の近くに住んでおり、小学校のそばの道路であることを承知していた。小学校のそばの道路をバイクで走行するに際しては、小学校の校庭からサッカーボールが飛び出してくることを予測して、万一サッカーボールが飛び出してきたときはすぐに急制動や回避措置ができるよう減速しながら走行すべきであった。
   従って、警戒不十分だった被害者に80%の過失相殺を講じるべきである。

実際に起きた交通事故の事例 〜 二審判決 〜

二審判決はこれに対しA~Cの判断を下し、両親の反論をほぼしりぞけました。
A:公道は誰でも自由に通行できる部分であり、その公道を通行する者が予期せぬ形で通行を妨げられた場合には大きな被害を生む危険が大きい。
    よって、公道の外にいる者(≒校庭内でフリーキックする者含む)は、公道の通行を妨害しないよう措置すべき注意義務がある。これは学校内で遊戯活動をする者であっても同様で、遊戯活動の影響はあくまで学校内に収めるべきである。
   従って、球技する場が公道と近接している場合には、公道へボールを飛び出させないようにする注意義務を負っているのだから、ボールが飛び出す危険のある場所でサッカーボールを蹴って校庭外に飛び出させた11歳の子供には過失がある。
    鬼ごっこ論に依拠する指摘については、たとえ校庭内の球技としてそれ自体は一般に容認されるものであっても、校庭外の第三者に損害が発生した場合にまで常に違法性がないとはいえない。
B:子供が球技など遊ぶ場合、周囲に危険を及ぼさないよう注意して遊ぶよう指導する義務を両親は負っている。校庭で遊ぶ以上どんな遊び方をしてもよいというものではないから、前記の注意義務あることを理解させていなかった点で、両親が監督義務を尽くしていないと評価されるのはやむを得ない。
C:被害者は小学校のそばの道路であることを知っており、小学校の校庭からサッカーボールが飛び出してくることは決して珍しいことではないのだから、この道路をバイクで進行する際には、眼前の危険を感じたら直ちに停止できる程度に速度を控え、また、校庭からボールが飛び出てこないか進路前方に注意を払いながら進行すべきだった。速度を控えて前方を注視していれば、被害者はボールを発見して安全に事故にならずに停止することも可能であったと、被害者に30%の過失相殺を講じました。

実際に起きた交通事故の事例 〜 最高裁判決〜

    ところが、最高裁2015/4/9自保ジ1941号1頁は両親に11歳の子供に対する監督義務違反はないと一審二審を全面的に覆し被害者の請求をしりぞけたのです。
「11歳の子供は友人らとともに、放課後、児童らのために開放されていた小学校の校庭で、ゴールポストに向けてフリーキックの練習をしていただけだ。
この行為は、ゴールの後方に道路があることを考慮に入れても、校庭の日常的な使用方法として通常の行為といえる
また、ゴールポスト付近の形状などから、ゴールに向けてボールを蹴ったとしても、サッカーボールが道路に飛び出ることが常態だったとはみられない。11歳の少年がことさらに道路に向けてボールを蹴った事情もない。」
「未成年者の親権者は、直接的な監視下に無い子どもの行動についても、人身に危険が及ばないよう注意して行動するよう日頃から指導監督する義務はある。しかし、ゴールポストに向けてのフリーキックの練習は、通常は人身に危険が及ぶような行動にはあたらない。
また、日ごろの指導監督はある程度一般的なものにならざるをえないから、通常は人身に危険が及ぶものとはみられない行為によってたまたま人身に損害を生じさせた場合は、特別の事情がない限り、子供に対する監督義務を尽くしていなかったとすべきではない。」
二審判決の理由づけの何を覆したかは最高裁判決からは一読して分かりにくいですが、最高裁は控訴審における両親の主張したα+βを強く意識しており、Bを覆してもAを覆しても両親の責任を免じることはできる中で、どちらかといえば【11歳の子供の行為はαの合法活動というべきなんだから、たまたま第三者に被害が起きたとしてBの監督義務の履行が不十分だったというのは強引でしょ】と説示している感じに読めました。
私も最高裁の結論には同意します。たしかに、被害者には気の毒ですが、現行法体系では二審判決の思考経路は両親に結果責任を課してしまっている気がするからです。被害者を救済する理屈は新たな法律を必要とするでしょう。
こういう事故も実際に起きているので、加害者に賠償責任を問えない場面にそなえての人身傷害保険、そして、通常は人身に危険が及ぶものとみられる行為の指導監督が足りないと指摘されたときに備えての個人賠償責任保険の両方に、ぜひとも加入しておくべきとまた認識を強くしました。

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