責任主体

気を失って交通事故を起こしたときの賠償責任は(心神喪失)?

  • 更新日:2023.3.29
  • 投稿日:2016.4.25
妻がクルマを運転している最中に、突然脳梗塞を発症し気を失いました。クルマをコントロールできなくなり、前方で赤信号停止していたクルマに追突する交通事故を起こしました。
妻は刑事責任能力がない状態だったと不起訴になりましたが、前方に停止していたクルマの修理費や我した運転者の治療費などの賠償問題はどうなるのでしょうか?
Qの中に【責任能力】という法律用語が出てきましたね。
刑法では、物事の良しあしをわきまえる能力、かつ、その弁別に従って行動を制御する能力の両方を持っていることを責任能力があるといいます。

心神喪失に該当すると罪に問われる?

 脳梗塞を発症して気を失った状態では、ハンドルやブレーキをきちんとコントロールする能力を一時的に無くしていますから、刑事では、心神喪失(しんしんそうしつ)に該当するとして責任能力はないと判定され(刑法39条1項)、罪を問われることはありません。

そして、民事の賠償の場面でも、心神喪失になっている間に他人に損害を与えたとしてもその人の賠償責任を免じる制度になっています(民法713条本文)。
 そういう法制度が設けられているのは、物事の良しあしをわきまえる能力を欠いた者がおこなった行動には賠償責任の免除を設けた方が、社会としては好ましいという政策的配慮のゆえと説明されています(人それぞれご意見はあると思いますが)。

交通事故

心神喪失になった運転者の賠償責任を否定した裁判例

 設例のケースで、追突された被害車両の修理費や積み荷など物的損害について、心神喪失になった運転者の賠償責任を否定した裁判例があります(名古屋地裁2011/12/8交民集44巻6号1527頁)。

 すると物的損害と同様、被害者の治療費や慰謝料など人的損害についても、民法713条本文が適用され、被害者は救済されないのでしょうか。

 自賠法4条には自賠法3条のほか民法の規定により処理すると書かれているので、人的損害についても民法713条本文は適用されるように読めます。

 しかし裁判例では、自賠法3条の定める免責3要件に心神喪失なども含めるとハッキリ書かれていないこと、運転者の心身喪失も車両の構造上の欠陥や機能上の障害と同じく車両圏内の要因といえなくもないこと、これらの理由により、心神喪失になった状態で交通事故を発生させた場合でも、物的損害と異なり、自賠法3条により運転者は人的損害の賠償責任を依然免れないと判断しました(大阪地裁2005/2/14判時1917号108頁、釧路地裁2014/3/17交民集47巻2号337頁)。
 人的損害に限定してあえて自賠法がつくられた意味、つまり、被害者救済の精神を重視した考え方を裁判所はするようです。

裁判

飲酒運転や居眠りでの交通事故では?

 なお、飲酒運転や寝不足などで居眠りをもよおしたまま運転して交通事故を起こした場合、物的損害・人的損害にかかわらず、賠償義務無しという判断は下されませんので(民法713条但書)、誤解なきように。
 例えば、無自覚性低血糖の加害者について、人的損害については自賠法3条本文による賠償義務を肯定し、かつ、物的損害について事故当時責任能力を失ってはいたが民法713条但書の過失があるとして賠償義務を肯定したケースがあります(東京地裁2013/3/7自保ジ1897号1頁)。

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