症状固定後の治療費はもう請求できないの?

Question

 加害者に請求できる治療費の範囲は症状固定までの期間に限定されるという説明ですが、その例外はないのでしょうか?

Answer

 症状固定後の治療費は加害者に賠償請求できないというのが原則論です(東京高裁2011/10/26自保ジ1861号1頁)。理由は症状固定の定義から導かれます。症状固定とはそれ以上治療を施しても改善が見込めない状態に至ったという意味ですから、症状固定後に治療を行うことは症状改善にとって意味のないことを行っているわけで、意味のない治療にかかる治療費は加害者に請求できないという理屈です。


 ですが、例外的に、症状のさらなる悪化防止など、現在の症状を維持するために医学的に不可欠と考えられる治療費については、症状固定後であっても害者の負担を命じる判決が幾つか出ています。

・右大腿部を切断して症状固定に至ってから1年6か月の間に、義足を作成するため通院し、その途中に切断部に孔ができたことから再入院して穴を防ぐ手術を受け、さらにその後に通院治療を要した場合の治療費全額(名古屋高裁1990/7/25判タ752号200頁)。

・下半身不随による、症状固定後のリハビリ費用24万6471円全額。ただし、費やした期間は不明(浦和地裁1995/12/26交民集28巻6号1870頁)。

・完全に失明した被害者が、将来の日常生活を送るために、費やした点字の習得などの生活訓練費用や教材費(東京地裁1986/5/15判タ620号149頁)。

・てんかんの症状固定に至った後に、症状の悪化を防ぎ固定した症状を維持するために不可欠であるとして、3年間の抗てんかん剤のクスリ代(東京地裁1980/7/25交民集13巻4号970頁)。

・寝たきりとなった被害者について、症状固定に至った後の1年間にかかった入院治療費について、必要かつ相当な出費であると全額認定(大阪地裁1996/11/29交民集29巻6号1759頁)。

・寝たきりとなった被害者について、症状固定に至った後の4年間にかかった入院治療費とリハビリ費用について、症状の悪化を防ぎ生命を維持するために必要であり、かつ、リハビリも効果があったといえるので、必要かつ相当な出費であると全額認定(水戸地裁1999/11/25交民集32巻6号1851頁)。

 

    また、現在の症状を維持するために不可欠という高いハードルでなくても、後遺障害の程度が比較的軽度であっても、治療継続が有効であったと評価して、外的に症状固定後の治療費を賠償対象に含める裁判例も3つ見つかりました。
  ただし、最後の前橋地裁高崎支部の判決は、さすがに症状固定という言葉の持つ意味を大幅に減殺しているのではないかという印象を受けます。

・後遺障害非該当の被害者であるが、症状固定に至った後の3か月で支出した治療費もまた、怪我の程度や治療期間や治療費総額に占める比率を勘案して、全額認定(神戸地裁1996/6/14交民集29巻3号880頁)。

・後遺障害等級12級の被害者について、症状固定に至った後1年3か月間にかかった治療費について、改善は期待できないまでも保存療法として必要だったと推定されると全額認定(神戸地裁1998/10/8交民集31巻5号1488頁)。

・症状固定後においても、治療により被害者の苦痛が緩和される限りは、その限度で治療の効果があるといえ、厳密な意味での症状固定は定めがたい点も考え合わせると、特別の事情のない限り、症状固定後もなお治療を継続した場面における治療費も賠償対象に含まれる(前橋地裁高崎支部1980/9/8交民集13巻5号1163頁)。

 いずれにせよ、例外という言葉でわかるとおり、加害者に賠償義務を課せられるのは稀です。具体的には、症状固定に達してはいるが、それ以降も治療を施すことが不可欠であるとか有効である、それを施さなければかように悪化するおそれが高い確率で是認できるといった医証がなければ、率直なところ、裁判官が賠償義務を認めてくれることはないと思われます。

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