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Q:福岡県前原市に住む30代主婦です。信号待ち停止中に、後方から激しく追突され、その勢いで前方に私の自動車も飛び出して玉突き追突しました。
骨折とかなかったのですが、首の痛みに加えて、翌日からめまいと両方の耳に耳鳴りがはじまりました、外の音が聞こえにくくもなりました。
いくつか病院を転医したのですが、事故から2年半経って、いろいろな検査を経て、両耳の外リンパ瘻(ろう)と診断され、内耳窓閉鎖手術を実施しました。手術で、めまいは若干マシになりましたが、耳鳴りと難聴はずっと続いて1年後に症状固定と診察されました。
自賠責では、難聴に伴い著しい耳鳴りが常時あると12級と評価されました。相手損保は、事故から2年半も経っての診断であることや、いまの診断基準に照らして外リンパ瘻(ろう)の発症という診断それ自体を承服できないと争ってきたので、やむなく訴訟することになりました。
外リンパ瘻(ろう)の診断基準の変遷・発生誘因・予後そして実際に交通事故での発症の有無が争点となった実例があれば教えてください。
A:実例として神戸地判姫路支部2025/3/6自保ジ2206号19頁が挙げられます。その判例は外リンパ瘻(ろう)について知識概要を手堅くまとめたものですので、それを使って順に説明していきます。
1、外リンパ瘻(ろう)の概要
外リンパ瘻(ろう)は、内耳リンパ腔(くう)と周辺臓器との間に瘻(ろう)孔が生じ、めまい・難聴・耳鳴・耳の閉そく感・自律神経失調をきたす疾患。
瘻(ろう)孔の存在という病因学的診断である外リンパ瘻(ろう)は多彩な症状を呈し、症候学的診断である突発的難聴やメニエール病などと症状が類似する。
なお病因学とは疾病の原因を医学で探究する学問であり、症候学とは患者の症状を体系的に整理し診断や治療の手掛かりを得ようとする学問である。
2、外リンパ瘻(ろう)の診断基準の変遷
厚労省が平成3年に発表した旧診断基準によると、瘻(ろう)孔の存在を確認できるのが一次的だが、現実には瘻(ろう)孔をじかに確認できることはまれであり、外リンパを思わせる髄液の漏出所見で診断することが多い。
しかし内耳窓窩は周囲より陥凹しており、手術時の頭位では手術侵襲に伴う組織液それに術野洗浄用の生理食塩水などが流入して貯留するために、外リンパの診断基準とされる髄液の漏出所見とこれら液体の貯留との区別が容易ではないと指摘されてきた。
他方、外リンパ特異タンパクであるコクリントモプロテインCTPが中耳から検出されれば、外リンパの流出が証明されたともいえるので、臨床症状に加えて、平成29年に生化学的検査所見として内耳からのCTP検出ができていれば、外リンパ瘻(ろう)の各実例とする新診断基準が定立された。なおCTP測定キットは令和4年から保険に組み込まれ日常診察の中でCTP検査は可能となった。
3、外リンパ瘻(ろう)の発生原因・カテゴリー分類
直接の外傷・頭部打撲など・疾患・医原性・外因性の圧・内因性の圧。
4、外リンパ瘻(ろう)の予後
外リンパ瘻(ろう)に対する外科的治療に挙げられる、内耳窓閉鎖術は、めまいに対する効果は高いと一般的に報告されている、ただし再発例もある。難聴はより早期の手術で改善する可能性が高いと報告されている。
神戸地判姫路支部2025/3/6の実例では、外リンパ瘻(ろう)と診断した最大の根拠として、診療担当した医師が内耳窓閉鎖術を執刀した際、卵円窓及び正円窓から外リンパの漏出貯留を現認したからと記録されている、なお瘻(ろう)孔は確認されていず平成29年当時だったのでCTP検査は実施されていない。手術時に外リンパの漏出貯留と、術侵襲に伴う組織液それに術野洗浄用の生理食塩水などの液体との区別が困難だったという事情はうかがわれず、その医師は外リンパ瘻(ろう)を専門領域として取り扱い多数の手術経験もある者であった。
これらから、旧診断基準に照らした診断が新診断基準では確実例とされないとしても、外リンパ瘻(ろう)の発症を否定すべきものにあたらないと説示しました。
加えて、当該診療担当した医師は、体位を変えた独自の独自の聴力検査と眼振検査も加味して、外リンパ瘻(ろう)と診断している所、内耳の構造や発生機序を医学的に踏まえると、その独自の検査が不合理とか医学的に根拠がないとまではいえず、むしろ旧診断基準を補完するものと解釈しました。
そして、外リンパ瘻(ろう)に該当する症状であるめまい及び耳鳴りは事故直後から発生しており、転医を経て2年間経過後に外リンパ瘻(ろう)と診断されたものの、交通事故以外には外リンパ瘻(ろう)の発生原因となる可能性の高い具体的な誘因となる事実は見当たらないとしました。
交通事故での発症事例はかなり珍しく、その分、判決の中で丁寧に解説されているため、実務上貴重な裁判例と判断し記事掲載することにしました。
交通事故(人身被害)に遭われてお困りのときは、お気軽に、豊富な解決実績を誇る、福岡の弁護士、菅藤浩三(かんとうこうぞう)にご相談ください。