盗難された車で交通事故を起こされた、車オーナーの賠償責任は?
盗難された車で交通事故を起こされた、車オーナーの賠償責任は?

そして、運悪く、独身寮の駐車場内に置かれていた自動車を、クルマ泥棒Vにより駐車場から摂取されたあげく、Vは逃走中に居眠り運転をして、他人にぶつけて大事故を起こしてしまいました。
現在、その大事故でX所有のクルマを大破させられたXから、Y会社での自動車の保管上の過失があり、かつ、その保管上の過失と交通事故との間に因果関係があるから、Y会社はXの被った物損を賠償してくれという請求書が届きました。当社Y会社は賠償に応じないといけないのでしょうか?

クルマ泥による泥棒運転の最中に、泥棒が交通事故を起こした場面で先例となっていたのは、最高判1973/12/20判時737号40頁です。その先例でも、従業員Cは、③’自動車のドアにカギをかけずエンジンキーを差し込んだままクルマ泥Vに窃取されたものの、①’会社車庫の公道への出入り口に近い場所に駐車させていた。この駐車場は客観的に第三者の自由な立入を封じる構造管理状況にありました。
最高判1973/12/20の先例では「Cのこの場所への駐車と、クルマ泥Vが交通事故を起こしたことの間には、相当因果関係がない。Y会社は運行供用者としての賠償責任は負わない」と説示しました。その理由として「クルマを置いている駐車場が第三者の自由な立入を封じる構造管理状況にあるときは、たとえ自動車にエンジンキーを差し込んだままドアにカギをかけずに駐車していても、そのことをもって、自動車が窃取されて窃盗した犯人によって交通事故が惹起されるとはいいがたい」と展開しました。第三者の自由な立入を封じる構造管理状況にエンジンキーを差し込んだままクルマがおかれていても、全く無関係な第三者がそういう場所に不法侵入して自動車の窃取をはかることはそれほど起こりうる事態ではないという発想に立つのでしょう。そのため、判例解説では「公道上で自動車のドアに鍵をかけずエンジンキーを差し込んだまま駐車している状況下で、クルマ泥に窃取された場合についてまで、この最高判1973/12/20の射程は及ばない」と言及されていました。
Qのケースは最高判1973/12/20のケースと①と①’が異なっています。そもそも、Y会社がXに対する賠償責任を負うためには、α、Y会社の保管管理の仕方が過失にあたる。と、β、その過失とクルマ泥Zが惹起した交通事故との間に相当因果関係がある。このαとβの両方を充足する必要があります。
一審東京地判2018/1/29は「①’の状況下では、Y会社には車両を施錠したうえでそのカギを第三者が使用できないように管理する注意義務があったのにそれを怠ったのだからαの過失がある。しかし、クルマ泥Zは居眠りをして交通事故を起こしているのだから、窃取に加えて居眠りというクルマ泥Zの重過失が介在しているので、Y会社の管理上の過失ゆえに交通事故が発生してしまったとは言い難く、βの因果関係を欠く」と説示してY会社のXに対する賠償責任は無しとしました。
二審東京高判2018/7/12は「②の内規がある以上は従業員Cが内規違反しても直ちにY会社に保管上の過失αがあるとはいえない。しかし、従業員Cのカギの置き方が第三者に窃取されるおそれある太陽であること、Y会社が内規を遵守させるべく鍵の保管について格別の注意を払っていた事実も認められないから、αの過失がある。さらに、Y会社の保管の不手際からは、クルマ泥や引き続きの居眠り運転さらには交通事故の発生という一連の因果の流れが予想できないとまではいえず、隙だらけの保管の仕方には交通事故が発生する危険が内包されていたといえるので、βの因果関係がある」と説示して、Y会社のXに対する賠償責任ありと一審結論を逆転させました。
で最高判2020/1/21はさらに①②③の要素からはY会社に保管上の過失αがそもそもないと明言したのです。さらに、林景一裁判官は、保管上の過失と交通事故との因果関係の判断にあたっては、「自動車を駐車する行為から交通事故が発生するまでの間には、第三者による窃取という故意と、加えて、第三者自身による交通事故の惹起という過失行為が介在するのであるから、自動車を無施錠で駐車していてもそのことのみから直ちに交通事故の危険を発生させたとまで評価すべきではない。駐車場所・エンジンキーの置き場所を含めた諸事情に照らし、自動車管理者が第三者による無断運転を容認していたと言われても仕方ないと評価できるか(その場合、事故の発生についても予見可能性があったといえるか否か)の観点から総合的に考察すべきである」と補足意見を展開しています。分析的思考に則します。