従業員が自転車運転中に加害者になった際に会社に責任あり?

 

従業員が自転車運転中に加害者になった際に会社に責任あり?

Question

福岡県田川郡川崎町にある工場の工場長です。残業も多く、公共交通機関の交通事情も決して良くないので、従業員には自転車で工場に行き来することを許容しています。
 ある従業員が工場から自宅に向かい片側2車線の幹線道路を夜に帰社途中で、右後方から自動車が接近しているのにはライトで気づいたのですが、まだ距離があるし自転車には反射板もあるので向こうも速度を落としてくれるだろうと思って斜め横断を開始したところ、第2車線上で、自動車運転者の前方不注視でぶつかられて、従業員はむち打ちの怪我をしました。
 自動車の運転手は、斜め横断をして自動車の直進を妨害した自転車の過失が非常に大きいと、自動車の修理費を賠償しろと、従業員個人そして勤務先の工場を訴えてきました。
 車道を斜め横断した自転車と、自転車の右後方から接近してくる自動車とが衝突した場合、自転車と自動車との過失割合はどうなるのですか?そして会社にこの事案で賠償責任があるのでしょうか?

Answer 京都地判2018/10/4自保ジ2035号115頁をモデルにしました。
 交差点以外の場所において、自転車が斜め横断した際に右後方から接近してくる自動車と衝突した事案の過失割合について裁判官はこのように説示しています。
「自動車運転者は、左前方の自転車の存在に気づいていたのであるから、自転車の横断を十分に予測して注視し、慎重に走行すべき義務があるにもかかわらず、これを怠った過失がある」
「自転車は、右後方の自動車の正常な交通を妨害するおそれがあるときは横断を禁止されているにもかかわらず、後方の自動車に対する確認不十分のまま漫然と横断を開始した過失がある」
 夜の幹線道路であること、斜め横断であること、自動車にとって第2車線に自転車が到達する前に気づく余地が相応にあったことなどを総合斟酌し、自転車50:自動車50という過失割合を設定しました。

 そして、自転車で出退勤している従業員がその過程で交通事故を起こした際の会社の賠償責任の箇所は次のように説示したのです。
1、会社に使用者責任を負わせるにあたっては、従業員のやった不法行為が、事業の執行についてなされたものであることが必要である(民法715条1項)。
 事業の執行についてなされたというためには、不法行為の外形から客観的にみて会社の職務の範囲内の行為に属することが必要である(最高判1964/2/4判タ159号181頁ほか。この判例では、会社が禁止している内規に違反して、自動車を私用運転をして帰宅途中に従業員が事故を起こした際に、会社の使用者責任を肯定した)。
2、たしかに従業員の通勤退勤という行動は勤務先で労務を従業員が提供するために必要不可欠な行動である。
 が従業員が本来の業務に従事している場面と異なり、会社が従業員に対して直接的な支配を及ぼすことは困難であり、私生活の側面が強い。とりわけ、通勤手段として従業員が自らの自転車を利用する行為は、その行為の外形から客観的にみると職務の範囲外と考えるのが社会通念上相当である。
3、そうすると、従業員が就業時間以外で、通勤退勤手段として自転車を利用しているときにその途中で交通事故を起こした際の使用者責任については、当該自転車が日常的に会社の業務に使用されているなどの特別の事情がない限りは、会社に使用者責任んを認めることはできない。
4、本件では、従業員の自転車運転は、会社の業務遂行そのものではなく、かつ、特別の事情も見当たらないので、職務の範囲外にあたり、会社に賠償責任はない。
 公共交通機関の事情から出金退勤するには自転車によるほかなく、会社から自転車の駐輪場が提供されていたという事情があっても、それらは特別の事情にあたらない。

 仮に従業員が自動車を運転していた場合には、これまでの裁判例では間違いなく会社の使用者責任を認めていたのですが、自転車か自動車かという交通手段の差だけでここまで肯定否定を峻別してよいものか、個人的には疑問のあるところです。

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