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実際に逆転認定された裁判例をもとに事案を設定しました。
自賠法3条但書というのは、交通事故で原告を怪我させた場合でも、被告が自動車の運行について注意を怠らなかったこと、原告又は第三者に故意過失があったこと、自動車の構造欠陥や機能障害がなかったことを、被告が証明に成功した場合は原告への賠償責任を免れるという条文です。
この事案で問題となるのは、原告が具体的に反論できない状況下で、被告はどこまでの証拠をそろえれば、青字の事柄の証明に成功したことになるかという点です。
一審松山地判今治支部2016/11/1自保ジ1991号86頁は
「被告が原告バイクと衝突するまで原告バイクに気づかなかったのもそれ自体不合理ではない。対面信号の表示について記憶にあいまいな点が残っているとしても、それをもって被告の対面信号に関する供述の信用性を否定するに足りる事情とはいえない。被告の供述は一貫しており核心部分において動揺は見られない」
と説示して、被告が青信号で交差点に進入したこと、原告が赤信号で交差点に進入した過失が立証されているとして、原告の賠償請求を全面的に棄却しました。
これに対し、二審高松高判2017/11/8ウェストロージャパンは
「一審被告に過失がなかったことを支持する証拠は、ある地点で前方青色信号を確認したという一審被告の供述(それに沿う実況見分での指示説明や捜査段階の供述含む)のみである。クルマにはドラレコはとりつけられていないうえ、目撃証言や他の客観的証言は存在せず、一審原告は重篤な精神障害を負ったことにより事故状況に関する説明をすることが出来ない状態にある。
自賠法の趣旨に鑑みると、ドラレコがとりつけられていないこと、目撃者の証言がないこと、交通状況から事故態様を合理的に推測することが困難であるといった事情から加害者に過失がないことを裏づける証拠が加害者の供述しかない場合、加害者が自らの過失を認めた場合に課せられるであろう民事上刑事上行政上の重い責任(特に被害者に重篤な傷害を与えた場合)を回避するために虚偽の供述をする可能性も十分にある。
加害者の供述が一貫している不自然ではない変遷していない客観的状況に整合していないとは言えないという理由によって、加害者の供述の信用性を肯定すると、本来立証責任を負わない被害者が事実上加害者の供述を覆す程度の立証をしなければならない責任を負担することになり、しかも被害者に重篤な傷害が残存する場合はその反証が非常に困難であることから、事実上、傷害を負っていない一方当事者に有利な事実認定が行われ、証言できないほど重篤な傷害を受けより保護すべき他方当事者が保護されない結果になりかねず、自賠法の立法趣旨に反する結果になってしまうのであるから、加害者の供述を信用して事故態様が認定できるかについては慎重に検討すべきである」
と説示して、衝突するまでバイクに気づかないなど一審被告が相当の注意を書いた状態にあった可能性は否定できず、客観的事情からは双方いずれに過失があるという決め手はないものの、相対的には一審被告が信号機の赤色表示を見過ごした可能性が高く、ある地点以外の前後で信号機を見たかどうかの一審被告の供述にはあいまいさが残り、運転者は通常信号機を確認した位置や状況について必ずしも意識的に記憶しているわけではないであろうから、このあいまいな供述をことさら不自然であるとか変遷しているとか評価することはできないけれども、一方、一貫していること以外に積極的に一審被告の供述を信用できると肯定すべき事情もないから、これのみによってクルマの対面信号が青色だったと認定することはできず、これを前提に一審被告に過失がなかったと判断することはできず、同時に、一審原告が交差点に進入する際の信号機の色が赤だったと認定することもできないから、結論として、一審原告に相殺されるべき過失ありと認定することもできないとして、自賠法3条但書の免責要件が立証されていないと、一審被告に100%の過失を認定しました。
一審原告は地獄から天国へ、大逆転判決です。