自動車運転死傷行為処罰法が成立しました

自動車運転死傷行為処罰法が成立しました

正式名称は「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」です。
この法律は次の①~④を内容とするもので、衆議院参議院ともに全会一致で可決しました。早ければ平成26年5月に施行される見込です。

①これまで刑法211条2項に定められていた自動車運転過失致死傷罪と、刑法208条の2に定められていた危険運転致死傷罪を刑法から削除して組み込むと同時に
②危険運転致死傷罪の対象類型(酩酊運転・制御困難運転・未熟運転・妨害運転・信号無視運転)に、【通行禁止道路の高速走行】と、【アルコール・薬物及び政令で定める病気の影響により、走行中に正常な運転に支障が生じるおそれある状態での運転】を新たに追加、
③アルコールや薬物の影響の有無や程度が発覚することを免れる目的で、さらにアルコールや薬物を摂取したり、事故現場を離れて濃度を減少させたりなど、捜査を免れる目的で免脱行動をとった場合に対する罰則を新設
④危険運転致死傷罪や過失運転致死傷罪を犯した者が、そのときに無免許運転だった場合には免許ある場合に比べ刑罰を加重

自動車運転死傷行為処罰法が成立する前には、刑法に自動車運転過失致死傷罪と危険運転致死傷罪の2つが設けられているだけでした。

この危険運転致死傷罪は、平成11年に飲酒運転常習者の運転するトラックが普通乗用車に追突して、2名の幼子が母親の目の前で焼死した東名高速飲酒運転事故の被告人がわずか懲役4年の実刑で済んだという刑事事件をきっかけに、市民40万人近くの署名運動を背景に平成13年に刑法典に新設されました。

しかし、危険運転致死傷罪による厳罰化がメディア報道などで強調された挙句、例えば、泥酔運転者がひき逃げして時間が経過したり、捜査が開始される前に飲酒したり逆に大量の水を飲んで血中アルコール濃度を下げるなどの隠蔽工作を講じる者が現れてきました(例:平成18年に起きた福岡海の中道大橋飲酒運転事故)。

また、平成24年に起きた亀岡市登校中児童交通事故死事件では、徹夜の長距離運転で遊び疲れた18歳の運転するクルマが登校中の児童と引率の保護者の隊列に突っ込んだため、3名が死亡しました。
この少年は無免許で居眠り運転だったのですが、無免許も居眠りも危険運転致死傷罪の構成要件に該当するものと位置づけられてはいません。
遺族は市民20万人以上から署名を集め危険運転致死傷罪による起訴を請願したのですけれど、やはり危険運転致死傷罪の構成要件には該当しないと単純な自動車運転過失致死傷罪で起訴され、懲役5年以上9年以下の不定期刑が言い渡されるにとどまりました。
この事件でも、事故の悲惨さと加害者の量刑とのギャップが遺族や市民感覚からもとうてい納得できないほど乖離していると指摘されたのです。

そのほか、平成23年に起きた鹿沼市クレーン車暴走事故では、てんかんの持病のある男性が、クレーン車を運転中にてんかんの発作が起きたため集団登校中の生徒の列に突っ込んで6名死亡しました。
続く平成24年に起きた京都祇園軽ワゴン車暴走事故では、てんかん発作により暴走に発展し、運転手を含め8名が死亡しました。いずれの運転者もてんかんの持病を申告せずに運転免許を更新していました。

後者は運転者である被疑者が死亡したため不起訴で終了したのですが、前者について、遺族は持病を申告せずに免許を取得したり更新しかつ治療薬の内服を怠っていた者だから故意による無謀運転として危険運転致死傷罪を適用すべきだと17万人の署名を集めて検察庁に請願しました。
が、単なる自動車運転過失致死罪として懲役7年の実刑判決にとどまりました。

危険運転致死傷罪をめぐっては<赤色信号を殊更に無視し>の解釈を示した最高裁2008/10/16判タ1295号190頁、<アルコールの影響により正常な運転が困難な状態>の解釈を示した最高裁2011/10/31判タ1373号136頁の法曹人にとって著名な最高裁判決2つが存在します。
特に福岡海の中道大橋飲酒運転事故をめぐる後者は、最高裁でも反対意見や補足意見が出たり地裁と高裁で逆転したりといった特殊な経緯がありました。

そのため、現実のさまざまな案件に積極適用すると弁護側が最高裁まで徹底抗戦し長期化が危惧されたからでしょう、検察官に同罪の積極適用を尻込みさせる運用を招いてしまいました。
その観点からは既存の不十分な法令を社会感覚にあわせてほしいと裁判官や検察官の法解釈に委ねるよりむしろ、立法措置に委ねる今回の対応は、国民にとって歓迎すべき事態といえるように思います。

   そんな経緯でこのたび成立した自動車運転死傷行為処罰法なんですが、それでも過労や睡眠不足による居眠り運転は、依然単なる自動車運転過失致死傷罪の対象にしかならないようです。

また、②で指摘した政令にどのような病気が入るのかも、果たしてその類型の疾病を危険運転致死傷罪に含めることが量刑にマッチしているのかを、今後も冷静に眺める必要があるだろうと思います。

まだ法務省の検討段階ですが、統合失調症・てんかん・再発性の失神・無自覚性の低血糖症・躁うつ病・重度の眠気の症状を呈する睡眠障害は対象疾病に含める反面、認知症やアルコール中毒や薬物中毒は対象疾病には含めないという案があがっているそうです。
てんかんや統合失調症を対象疾病に含めることについては、日本てんかん学会や日本精神神経学会という医学界から反対の声明が出されています。


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