菅藤浩三ブログ

交通事故被害者は人身傷害保険の利用順序にご注意ください

  • 更新日:2025.9.4
  • 投稿日:2016.4.25

交通事故被害者は人身傷害保険の利用順序にご注意ください

交通事故被害者は人身傷害保険の利用順序にご注意ください

例えば、《訴訟基準だと被害総額が100万円、交通事故被害者の過失が40%、人身傷害保険の計算だと被害者自身が契約している人傷社から約款基準で80万円が支払われるケース》を、設定して説明してみます。

人身傷害保険を先行して利用した場合

1、被害者が人身傷害保険を先行利用し、人傷社から80万円を取得した場合。

 旧保険法時代ですが、人身傷害保険には【保険金請求者の権利を害しない範囲で】求償権を取得するという約款の規定がありました。

 この約款の規定のため、人傷社が加害者に行使できる求償権の範囲は、被害者がもともと加害者に過失相殺のため請求できない部分(100万円×40%=40万円)に先に充当されるため、その結果、人傷社は加害者に80万円ー40万円=40万円の範囲でしか求償できず、被害者は依然、人傷社から払ってもらえていない20万円を加害者に請求することができるとされています。

 このように、人身傷害保険を先行して使うと、被害者は過失があったにもかかわらず、被害総額100万円を満額回収できる扱いがとられています(最高裁2012/2/20判タ1396号83頁)。

 どの人傷社もこの扱いに差はありません。

 なお、新保険法に代わり約款自体が変更されていることが多いので、約款を入手することをお勧めします。

加害者への賠償請求を先行させた場合の問題点

2、では被害者が先に加害者への賠償請求を先行させ、加害者から60万円(=100万円×60%)回収した後、人傷社に自分の過失分を補填してほしいと100万円との差額40万円を請求してみましたときはどうなるのでしょうか。

普通に考えれば、人身傷害保険を先に利用したか加害者への請求を先にしたかだけの違いで、被害者が受け取れる額に差が出るのはオカシイですよね。多くの人身傷害保険ではその差が出ないように運用しているときいています。

 ところが、某損保会社は、「人身傷害保険の上限は80万円だから、既に加害者から60万円を受け取っているので、約款の規定から差額20万円しか被害者には渡せない」と回答してきたのです。

 しかもその回答が大阪高裁2012/6/7自保ジ1875号1頁、東京地裁2015/12/15自保ジ1967号177頁では是認されてしまっているのです(上告棄却されたという非公開情報が入りました)。

請求順で支払額が変わることをめぐる司法判断

 このような違いが起きるのを防ぐべきだという指摘は、最高裁2012/2/20宮川光治補足意見や、最高裁2012/5/29自保ジ1874号1頁田原睦夫補足意見でもなされてはいます。そのほか、東京地裁2014/1/28判タ1420号386頁、東京高裁2008/3/13判時2004号143頁の傍論も同趣旨です。

 しかしながら、前記大阪高裁2012/6/7では、文理からかけ離れた約款解釈をとることはできないという理由で、このような違いは望ましくないが仕方がないという割り切った判断を示したのです。

弁護士や消費者が知っておくべきこと

 交通事故を取り扱う弁護士としては、正義はどこにあるかという意見が起き上がるのは当然だとしても、被害者に過失ある場面で人身傷害保険を利用する場合は、どっちを先行利用すべきかを意識して利用する必要があるのかないのか、被害者にきちんと説明できるよう、知っておくべきだということです。

 なお、繰り返しますが、多くの人傷社ではどちらが先で支払額に差が出ないような運用をしていると聞いています(☆ただしその適用範囲はもっぱら被害者が訴訟を利用した場合に限り、示談交渉などの場合には適用しないという、特殊な運用がなされているとの情報が入っています。

 また、人傷社が支払った人身傷害保険のうち自賠責保険から回収した分については、被害者の過失部分に優先充当すべきではないと相手損保が被害者に不利な充当方法を主張してくる事態もかなり増えています。もっともその解釈を支持しない裁判例の方が見受けられるのですが)。

 しかし、どちらが先かで支払額に差が出る運用をしている人傷社もあるからこそ最高裁までもつれているわけです。保険自由化が進む中、名称は同じあっても、どこも同じ内容の補償をしているわけではないことは、消費者として知っておくべきでしょうし、人身傷害保険を付保している過失ある依頼者から利用の相談を受けたときは、弁護士自ら差の有無を各損保会社に尋ねて確認する必要があるのではないでしょうか。

 保険料が安い会社ほど、いざというときの補償は薄くなりがちだという現象が、損害保険業界でも今起きつつあるのです。

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弁護士 菅藤浩三

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菅藤 浩三(かんとう こうぞう)

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