損益相殺

既に現実に受け取った分を越えて年金が損益相殺されることが?

  • 更新日:2024.5.21
  • 投稿日:2016.4.25

既に現実に受け取った分を越えて年金が損益相殺されることが?

障害年金交通事故Question
障害年金交通事故Question
職場から仕事を終えて福岡県宮若市の自宅に自転車に乗って帰る途中、信号無視したクルマに真横から激しくぶつけられ大けがを負いました。右足部のリスフラン関節より先を無くしてしまい、労災で障害等級7級が認定されました。自賠責の後遺障害等級認定も同じでした。
症状固定後は、労災から障害年金の支給を受けています。ことし9月に相手損保から賠償額の提示書面が届いたのですが、そこに[障害年金を差し引く、しかも12月までの障害年金を支給が確定しているから差し引く]と書かれていました。
まだ受け取ってもいない障害年金を、差し引くとかおかしくないですか?

交通事故の障害年金について

障害年金交通事故Answer
労災で後遺障害が認定されたとき、その程度が第1~7級のいずれかに達する場合には、一時金でなく障害年金という形で労災給付が履行されます。 具体的には、第1~7級のいずれかに達すると認定された月の翌月分から、毎年偶数月の6回に分けて、障害年金が支給されます。

ところで、交通事故で後遺障害が認定され、障害年金を受けることになった場合、障害年金は損益相殺の対象となります(東京地裁2008/1/24交民集41巻1号58頁)。つまり、相手損保への請求額から、この障害年金を控除しなければならない関係とされています。

交通事故の障害年金損益相殺について最高裁の見解

交通事故の障害年金損益相殺について最高裁の見解
さて差し引かれるのは仕方ないにしても、既に受け取った分、Qの例ですと2~8月の4回分を差し引くならまだしも、まだ受け取っていない10~12月の2回分を差し引くのはなぜなのでしょうか。

かつて下級審では、現実に既に受け取った分しか差し引けないという見解が多数派だったのですが、

最高裁1993/3/24判タ853号63頁の多数意見が、たとえまだ受け取っていない分であっても支給される金額まで確定した年金については、現実に受け取ったのと同視できる程度に支給の履行が確実といえるから、差し引くべきとの見解を打ち出したからです。

そして、障害年金の支給額は年1回ハガキで通知されますが、そのハガキに記載されている年金額の支給時期が例えば12月まで書かれていたら、その12月分まではたとえ将来の支給分であっても、現実に受け取ったものと同視されるのです。

ということで、Qへの答えは「ひどい感じはしますが、最高裁の多数意見がそうしなさいといってるので、やむをえない」ということになります。

ついでに、前記最高裁1993/3/24の中で、味村治裁判官は「差し引く範囲は、現実に受け取ったのと同視できる程度に支給を受けることが確定した分にとどまらず、さらに、同性同年齢の平均余命までの間に受け取るであろう年金額まで拡張すべき」という、交通事故被害者に非常に酷な反対意見を出していました。
賛同者がほかに誰もいなかったから多数意見にならず反対意見で終わったのですが。

加害者が自賠責保険に加入していないケース

ところで、交通事故の被害者に後遺障害が残存したものの、加害者が自賠責保険すら加入していなかった場合、被害者は自賠責保険金相当額を政府保障事業に請求することができますけれども(自賠法72条1項)、この政府保障事業から支払われる枠も障害年金を損益相殺して支払います(自賠法73条1項)。
政府保障事業の場面での損益相殺も、先ほどの最高裁1993/3/24多数意見と同様、既に支払われた分及び支給額が確定した分に限られるのかについて、

最高裁2009/12/17判タ1315号90頁は、政府保障事業の場合は、加害者が加入していた自賠責保険から支払うのでなく、社会保障政策の観点から国が加害者に代わり被害者を救済することに特徴がある点を重視して、最高裁1993/3/24多数意見と扱いを違えて、法律の文言とおり、同性同年齢の平均余命までの間に受け取るであろう将来の年金額まで控除対象を拡張してよいと説示したのです。

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    論文集の数行の記載から裁判例を探り出して、自己の主張の根拠づけに利用したことは何度あるかわかりません。

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