妊娠中に交通事故にあい流産・中絶となったときはどう扱う?

Question

八女市に住んでいる35歳妊婦です。2人めの子供を妊娠し妊娠5カ月めのときに追突される交通事故に遭いました。妊婦でシートベルトをはめていなかったので腹部を強打することはなかったのですが、交通事故から1週間経ったころから不正出血が始まり、その1週間後に流産してしまいました。

 ところが、相手損保は「自然流産だった可能性があるので、流産したことへの賠償はできない。」とひどいことを言ってくるのです。子供をとても楽しみにしていたので、どうしても交通事故のことを思うとやりきれない思いでいっぱいです。産婦人科医も交通事故のせいだとハッキリはいえないと言っています。相手損保の言う通りなのでしょうか。

Answer 

 今とてもつらい状況ですよね、慰める言葉がでてきません。しかし、法律についてのお尋ねですので、冷静に答えさせていただきます。

 まず《因果関係の立証》をクリアできるかどうかが、流産・中絶について損害賠償請求する際の法律上の最大のハードルであることを指摘しなければなりません。

 妊娠中の女性は、ただでさえ体内に胎児がいて日常生活上の様々なストレスにさらされています。そんな中、交通事故に遭遇することがもたらす母体への悪影響は無視できません。

 ただ、交通事故に遭遇した妊婦全てが常に流産するという自然律も存在せず、流産といっても医学的原因を特定できない自然流産も少なくありません。
 ここでは、交通事故に起因して流産・中絶となったことが医学的に証明されたといえるのか否かがポイントとなります。

 それを判断する要素として、母体の受傷部位・受傷直後の子宮からの出血など異常所見の有無・妊娠してからの経過期間・母体の年齢や出産経験など、種々の事情を総合して産婦人科医の意見を聴取して、考察することになります。
 過去にも、たくさんの裁判例で因果関係の存否が争われています。

・追突事故後の1か月を経過してから出血が開始し切迫流産した事案で、因果関係に関する医師の的確な証明書を欠くと、流産と交通事故との因果関係を否定した東京地判1993/12/7交民集26巻6号1484頁

・妊娠9カ月めで追突事故に遭い、発育遅滞児を死産した事案で、腹部には直接に打撃を受けていないことを理由に、死産と交通事故との因果関係を否定した旭川地判1979/8/6交民集12巻4号1087頁

・交通事故後の1か月後に妊娠2カ月で流産となった事案で、腹部に加わった圧力が大きく、妊娠初期による腹部への圧力は流産の要因にもなるとして、因果関係を認め、流産について150万円の慰謝料を認めた大阪地判1996/5/31交民集29巻3号830頁

・妊娠2カ月の被害者が歩行中に車に衝突されて路上に尻もちをついて転倒し交通事故から10日後に切迫流産した事案で、流産への慰謝料120万円を認めた東京地判1985/7/26交民集18巻4号1022頁

・妊娠5カ月目の女性が追突事故の翌日に切迫流産と診断された事案で、切迫流産の7割近くは胎児に原因があり、下腹部への打撃過労大きなストレスなどは実際にはほとんど原因にならないと因果関係を否定した大阪高裁2010/11/5自保ジ1835号75頁

・交差する一時停止道路から猛スピードで進入してきたクルマに衝突され、コンクリート柱に衝突停止した交通事故で妊娠7週目の41歳の女性が4日後に不正出血を開始し流産した事案で、腹部にあざができるほど相当な衝撃により流産したと因果関係を認めた大阪地判2006/2/23自保ジ1653号12頁(★流産に関する概括的知識が判決文中に記されています)

 また、交通事故当時に妊娠したことの自覚がないままにレントゲン検査を受けて、その際に妊娠が発覚したため、放射線照射による胎児への悪影響を危惧して中絶手術を選択した場合に、交通事故と中絶との因果関係は是認されやすいようです(中絶手術の費用と中絶への慰謝料10万円加算を認めた東京高判1981/3/25交民集14巻2号343頁、中絶費用の賠償を認めた大阪地判2005/1/31交民集38巻1号187頁中絶への慰謝料30万円の加算を認めた横浜地判1981/12/24交民集14巻6号1471頁、実通院15日ながら100万円の慰謝料を認めた大阪地判1994/1/19交民集27巻1号62頁)。

 最後に、因果関係を是認されなかった場合でも、全く斟酌しないかというと、追突事故による頸椎捻挫で長期入院した際切迫流産となった被害者について、交通事故と流産との因果関係は認めがたいが、交通事故による苦痛心労は懐胎のない場合に比べて数段増していたことが推認されると慰謝料算定の際に加算斟酌した東京地判1993/12/7交民集26巻6号1484頁もあります。
 ただし、その裁判例では、長期入院という特殊事情が介在しており、因果関係が認めがたい場面で簡単に慰謝料割増が得られるかどうかは流動的でしょう。

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