転回自動車と直進バイクとの過失割合が逆転したケース

 交差点でない車道上でバイクと自動車が同一方向に進行しているとき、バイクに先行している自動車が逆方向に行こうとUターンすることがあります。後方にいるバイクにとっては、自己の進路を妨げられ、しかも、前方をふさがれる格好になるのでハンドル操作では回避しにくく、衝突を回避しようと急ブレーキをかけたあげくにスリップ転倒して大事故につながることがあります。
 那珂川 バイク事故

 車両は、歩行者またはほかの車両(バイク含む)の正常な交通を妨害するおそれがあるときに転回してはならず(道交法25条の2第1項)、転回するときはやろうとする30m手前から合図しなければなりません(道交法施行令21条、道交法53条1項2項)。
 一般に、バイクが後ろを直進しているときに先行する自動車が転回して交通妨害したために交通事故が発生した場面での過失割合の基本はバイク10:自動車90です(別冊判タ38号全訂5版【229】図)。
 バイクの過失が0%でないのは、バイクにも前方で転回しようとしている自動車が見える以上、その動静に万全の注意を払う安全運転義務(道交法70条)が依然課されているからとされています。
 
 そして、バイク10:自動車90の過失割合は、例えば、自動車が転回禁止場所で展開をした場合には自動車に20不利に、自動車が転回の合図をせずに突然転回を開始した場合には自動車に10不利に、逆に、バイクが制限速度を30㎞以上オーバーしていたときはバイクに20不利に修正するという賠償実務上でのルールが存在します。
 
 ところで、バイクが制限時速40㎞のところを走行時速80㎞(制限時速40㎞オーバー)していたところ、60mほど前で先行するタクシー車両が転回行動をしている様子をみかけ、急ブレーキをかけたところタイヤがロックされてスリップ転倒して大怪我を負い、バイクライダーがタクシーに損害賠償を求めたのが大阪地判2017/8/24自保ジ2008号149頁です。タクシーが転回した場所は転回禁止規制下でもありました。

 上記大阪地判2017/8/24の裁判官は
・タクシーが転回禁止規制あることを見過ごして転回させたことは事実だけれども
・他方、タクシーが転回している様子をバイクライダーが視認した時点で、両者は少なくとも60mは離れており、かつ、タクシーがバイクが走行していた第2車線の全てをふさいでいたものではないのだから、もしバイクが制限速度40㎞で走行していれば急ブレーキをかけなくてもタクシーと衝突したり接触する危険は乏しかった。
・にもかかわらず、バイクが急ブレーキをかけたのは、制限速度の2倍に相当する時速80㎞の高速度で走行していたからにほかならず、タイヤがロックされてスリップ転倒したのも、専らバイクライダーの大幅な制限速度違反に起因すると言わざるを得ず、
・タクシーの転回禁止義務違反とバイクの急ブレーキ転倒との間には相当因果関係が認められない」と、
 バイク100:自動車0の判決を下したのです。

 本件に別冊判タ【227】図を形式的に当てはめると、直進バイクの過失は基本10、タクシー転回禁止場所のためー20、直進バイクの30㎞以上の速度違反+20により、直進バイク:転回タクシー=10:90付近にとどまることになります(もっとも、バイクとタクシーが直接接触していない部分を、もう少しバイクに不利に斟酌することはありえますが)。

 おそらく、上記大阪地判2017/8/24の裁判官は別冊判タ38号全訂5版375頁にある《転回自動車が直進バイクの進路に進入する時点において、直進バイクの正常な交通を妨害する関係になければ、過失割合が逆転するのが当然であり(この場合はむしろ追突の類型に入るであろう)、さらには、転回自動車の過失が否定される場合もあろうが、そのような場合はこの種の事故においてはむしろ例外的な事例に属しよう》の記載を踏まえたのでしょう。

 しかし、転回自動車の転回終了直後に直進バイクが追突した別冊判タ38号全訂5版【231】図の類型であってもせいぜい直進バイクの基本割合を20にとどめていることを踏まえると、自動車の転回と交通事故との因果関係を完全に断ち切ってバイク100とした大阪地判2017/8/24の判断には個人的には留保を入れる必要があるように思いました。
 重視されたのは60mの距離という点なのでしょう。60mもあればたとえ時速60㎞で走行しているバイクでも転倒なく停止できたという科学的証拠が伴ってはじめて、直進バイクの正常な交通を転回が妨害していないというこの判断も肯定できるのではないかと。