実際に休業していない兼業主婦の休業損害の金額評価は一筋縄ではいかない

 第1に、家事従事者が交通事故に遭い、受傷のため家事労働に従事できなかった期間に対し、休業損害として金銭評価がなされることは賠償実務ではもはや定説である。
 最高判1975/7/8交民集8巻4号905頁では、その理由として、家事労働に属する多くの労働は、労働社会において金銭的に評価されるもので、これを他人に依頼すれば当然に相当の対価を支払わなければならないのであるから、家事従事者は自らの労務により財産上の利益を挙げていると評価できるため、と説示する。

 第2に、兼業主婦の基礎収入は、外勤により獲得する実収入が平均賃金を上回っているときは実収入額を用いるのに対し、実収入が平均賃金を下回っている場合(パート勤務など)、全年齢平均賃金に拠ることを原則とし、家族構成・年齢・身体状況・家事労働の内容などに照らし、年齢別平均賃金を参照して適宜減額することも例外的にあるとされている(3庁共同提言)。

 これらは基礎収入に関する議論であるが、休業損害は基礎収入に休業割合を乗じて算定されるものであり、この休業割合の評価が一筋縄ではいかないのだ

 単純に入院しているなら全く自宅で家事はできないのだから100%のはず。
 しかし、むち打ち症をはじめとする多くの交通事故の怪我では通院加療のみで済ませることが大半である。自宅に家族がいるときに、炊事掃除洗濯料理育児を全くしない家事従事者はいない。身体の痛みを抱えつつ、手抜きしながらどうにかこうにかこなしているはずである。これを家事労力が何%減少したと数値化するのが弁護士にとっても非常に難しい。客観的な数値化は無理だ。

 さらに、交通事故による怪我のため仕事を完全に休めればまだしも、少ない人数で回っている職場も多く、休んで周りへ迷惑かけることの躊躇から、仕事の休みは最小限に、極端な場合は1日も休まずに仕事に出続ける人も珍しくない。まじめな人ほど休まず、かえって身体の治りが遅くなってしまう。

 ところが、休業損害という観点で議論すると、仕事に休まずに出かけられるということは、家事にも支障をきたさない身体だったのではないか、と疑られがちである。社会人としての責任感や思いやりを仇に評価されてしまうのだ。裁判官であっても実際に仕事を休んでいない事実を重く評価しかねない。

 もっとも、兼業主婦といっても、座っての事務仕事や立ちっぱなしの作業、1週間の労働時間が20~30時間のパート勤務もあれば、1週間40時間のフルタイム勤務もあるので、等しく仕事に休まずに出かけていたと言っても、家事労働への影響はなかったと推定すべきか、あるいは、それでもなお家事労働への影響はゼロではなかったと喝破すべきか、評価が分かれる場面もあるであろう
 こういう様々な要素を組み込む必要があるので、交通事故を何十年もとりあつかう弁護士であっても、いまなお件名の結論に至らざるをえないのだ。