走り去るクルマのドアノブを掴み続けたゆえに怪我したら

Question

 私の兄の家族内で起きた交通事故のことです。兄は、母X(被害者)・兄の妻Y(加害者)・小学1年生の長女の4人で福岡県福津市に住んでいます。
 3日前からYが長女を連れてクルマで突然別居を開始しました。Yが言うには兄のDVが別居の原因ということです。
 今日、Yが自宅に荷物を取りに帰ろうと、兄のDVのことで相談していた生活安全課の警察官を同行して(警察官は別のパトカーに乗って移動したようです)クルマで自宅に一時戻ってきました。
 Yが自宅に入ろうとしたときに、ちょうど外出から帰ってきたXが気づき、Yになぜ突然別居したのか聞こうと近寄っていきました。
 Yは逃げ去ろうと、乗ってきたクルマの運転席に乗り込みました。XはYに出てもらって話をしようとクルマの運転席のドアノブを右手でつかみました。するとYはドアノブを掴まれたと同時にクルマを発進させたのです。
 Yは、Xがドアノブを掴んでいるだろうとは認識しつつ、クルマを発進させればすぐに手を放すだろうと考え、停車せずXがドアノブを掴んだままの状態で10mほど並走させたところ、Xが転倒して、転んだ拍子に、左橈骨尺骨骨幹部骨折・左母指中手指骨折などの怪我を負いました。
 Yの行為は非常に悪質だと思います、Xに過失はないのでは?

Answer 名古屋地判2016/10/21交民集49巻5号1236頁の事案です。
裁判所は「Yは、Xが運転席のドアノブを掴み続けている状況を知っていたのだから、直ちに停車すべきだったにもかかわらず、Xがすぐに手を放すだろうと安易に思い込んで停車せず並走しつづけたのであるから、その過失はXより重い」と言いつつも、同時に、「Xにも、発進しようとするクルマのドアノブを掴み、発進後もつかみ続けてクルマと並走している点に相殺される過失がある」と説示し、その過失割合をY8:X2としました。

 感覚的には、Yの行動はXが怪我するリスクをあえて是認する未必の故意にあたるほど危険なものでXに過失を問うたことに疑問無しもしないのですが、おそらくXが掴んだ右手をドアノブから離すことは造作もない行動だったのに、その造作もないリリースをしなかったことを2割相当の過失とみたのでしょう。
 クルマを停めたいと思っても自分が怪我するリスクを抱える方法を使っては怪我した際に一定の自己責任を課せられるということなんです。

※似たような事案でも、裁判官ごとに過失割合の数値が異なることは、実際の裁判でもかなり見受けられます。各事例で示された数値が絶対的数値であると誤用されないようにご注意願います。